荘子 / 庚桑楚
一雀適羿,羿必得之,威也;以天下為之籠,則雀無所逃。是故湯以胞人籠伊尹,秦穆公以五羊之皮籠百里奚。是故非以其所好籠之而可得者,無有也。
書き下し
一雀羿に適(ゆ)けば、羿必ず之を得。威なり。天下を以て之が籠と為さば、則ち雀は逃るる所無し。是の故に湯は胞人(ほうじん)を以て伊尹(いいん)を籠にし、秦の穆公は五羊の皮を以て百里奚を籠にす。是の故に其の好む所を以て之を籠にするに非ずして得べき者は、有る無きなり。
現代語訳
一羽の雀が羿の前に来れば、羿は必ずこれを射止める。それが彼の威力だ。天下そのものを籠にすれば、雀はどこへも逃げられない。だから殷の湯王は、料理人の職を籠にして伊尹を捕らえた。秦の穆公は、五枚の羊の皮を籠にして百里奚を捕らえた。だから、その人が好むものを籠として仕掛けなければ、その人を得ることはできないのだ。
解説
人を得る方法を語る、実際的な一段です。伊尹は料理人になりたがったから、料理人の職を用意した。百里奚は羊の皮五枚で買われた。どちらも、その人が望むものを餌にしています。「その人が好むものを籠にしなければ、その人は得られない」。人を動かすには、こちらの都合ではなく、相手が本当に欲しているものを差し出すしかない。ただし、これは操作の技術でもあります。相手の好むもので籠を作る。この構図は、人を捕らえる話でもあるのです。