荘子 / 山木
孔子窮於陳、蔡之間,七日不火食,左據槁木,右擊槁枝,而歌猋氏之風,有其具而無其數,有其聲而無宮角,木聲與人聲,犁然有當於人心。
新字:孔子窮於陳、蔡之間,七日不火食,左拠槁木,右擊槁枝,而歌猋氏之風,有其具而無其数,有其声而無宮角,木声与人声,犁然有当於人心。
書き下し
孔子陳・蔡の間に窮す。七日火食せず。左に槁木(こうぼく)に拠り、右に槁枝を撃ちて、猋氏(ひょうし)の風を歌う。其の具有りて其の数無く、其の声有りて宮角(きゅうかく)無し。木声と人声と、犁然(りぜん)として人の心に当たる有り。
現代語訳
孔子が陳と蔡の国境で行き詰まった。七日間、火を通したものを食べていない。左手を枯れ木にかけ、右手で枯れ枝を叩きながら、太古の歌を歌っていた。楽器はあるが拍子はなく、声は出ているが音階もない。木を叩く音と人の声とが、それでもくっきりと、人の心に響くものがあった。
解説
極限状況で歌う孔子の姿を描いた、美しい一段です。七日間、まともに食べていない。楽器もなく、枯れ枝を叩くだけ。拍子もなければ音階もない。音楽として整っていないのです。それでも「くっきりと、人の心に響くものがあった」。整っていないのに、届く。技巧も形式もないのに、心を打つ。ここには、本物とは何かという問いへの答えがあります。整えることが心を打つのではありません。極限まで削がれた状態で、なお出てくるもの。それが人に届くのです。