荘子 / 山木
子桑雽曰:「子獨不聞假人之亡與?林回棄千金之璧,負赤子而趨。或曰:『為其布與?赤子之布寡矣。為其累與?赤子之累多矣。棄千金之璧,負赤子而趨,何也?』林回曰:『彼以利合,此以天屬也。』夫以利合者,迫窮禍患害相棄也;以天屬者,迫窮禍患害相收也。夫相收之與相棄亦遠矣。且君子之交淡若水,小人之交甘若醴;君子淡以親,小人甘以絕。彼無故以合者,則無故以離。」
新字:子桑雽曰:「子独不聞仮人之亡与?林回棄千金之璧,負赤子而趨。或曰:『為其布与?赤子之布寡矣。為其累与?赤子之累多矣。棄千金之璧,負赤子而趨,何也?』林回曰:『彼以利合,此以天属也。』夫以利合者,迫窮禍患害相棄也;以天属者,迫窮禍患害相収也。夫相収之与相棄亦遠矣。且君子之交淡若水,小人之交甘若醴;君子淡以親,小人甘以絶。彼無故以合者,則無故以離。」
書き下し
子桑雽曰く、「子は独り假人(かひと)の亡(に)ぐるを聞かざるか。林回(りんかい)は千金の璧を棄て、赤子を負いて趨(はし)れり。或るひと曰く、『其の布(あたい)の為か。赤子の布は寡(すく)なし。其の累(わずら)いの為か。赤子の累は多し。千金の璧を棄て、赤子を負いて趨るは、何ぞや』と。林回曰く、『彼は利を以て合し、此は天を以て属(ぞく)す』と。夫れ利を以て合する者は、窮禍患害に迫れば相棄つるなり。天を以て属する者は、窮禍患害に迫れば相収むるなり。夫れ相収むると相棄つるとは亦た遠し。且つ君子の交わりは淡きこと水の若く、小人の交わりは甘きこと醴(あまざけ)の若し。君子は淡くして以て親しみ、小人は甘くして以て絶つ。彼の故無くして合する者は、則ち故無くして離るるなり」と。
現代語訳
子桑雽は言った。「あなたは、假の国の人が逃げた話を知らないか。林回という男は、千金の値打ちのある玉を捨て、赤ん坊を背負って走った。ある人が言った。『値打ちのためか。赤ん坊の値打ちは知れている。煩わしさを避けるためか。赤ん坊のほうが厄介だ。千金の玉を捨てて赤ん坊を背負って走るとは、いったいなぜだ』。林回は言った。『玉とは利益で結ばれている。この子とは天のつながりで結ばれている』と。利益で結ばれた関係は、行き詰まりや災いが迫れば、互いに見捨て合う。天のつながりで結ばれた関係は、行き詰まりや災いが迫れば、互いに引き受け合う。見捨て合うことと引き受け合うこととは、遠く隔たっている。それに、君子の交わりは水のように淡く、つまらない人間の交わりは甘酒のように甘い。君子は淡いからこそ親しみが続き、つまらない人間は甘いからこそ切れる。理由もなく結びついた者は、理由もなく離れていくのだ」と。