荘子 / 山木
市南子曰:「君之除患之術淺矣。夫豐狐文豹,棲於山林,伏於巖穴,靜也;夜行晝居,戒也;雖飢渴隱約,猶旦胥疏於江湖之上而求食焉,定也。然且不免於罔羅機辟之患,是何罪之有哉?其皮為之災也。今魯國獨非君之皮邪?吾願君刳形去皮,洒心去欲,而遊於無人之野。南越有邑焉,名為建德之國。其民愚而朴,少私而寡欲;知作而不知藏,與而不求其報;不知義之所適,不知禮之所將;猖狂妄行,乃蹈乎大方;其生可樂,其死可葬。吾願君去國捐俗,與道相輔而行。」
新字:市南子曰:「君之除患之術浅矣。夫豊狐文豹,棲於山林,伏於巖穴,静也;夜行昼居,戒也;雖飢渇隠約,猶旦胥疏於江湖之上而求食焉,定也。然且不免於罔羅機辟之患,是何罪之有哉?其皮為之災也。今魯国独非君之皮邪?吾願君刳形去皮,洒心去欲,而遊於無人之野。南越有邑焉,名為建徳之国。其民愚而朴,少私而寡欲;知作而不知蔵,与而不求其報;不知義之所適,不知礼之所将;猖狂妄行,乃蹈乎大方;其生可楽,其死可葬。吾願君去国捐俗,与道相輔而行。」
書き下し
市南子曰く、「君の患いを除くの術は浅し。夫れ豊狐文豹(ほうこぶんぴょう)は、山林に棲み、巌穴に伏す。静なり。夜行き昼居る。戒なり。飢渇隠約(きかついんやく)すと雖も、猶お旦(あした)に江湖の上に胥疏(しょそ)して食を求む。定なり。然り且つ罔羅(もうら)機辟(きへき)の患いを免れず。是れ何の罪か之れ有らんや。其の皮之が災いを為すなり。今魯国は独り君の皮に非ざるか。吾願わくは君、形を刳(えぐ)り皮を去り、心を洒(あら)い欲を去りて、無人の野に遊ばんことを。南越に邑(むら)有り、名づけて建徳の国と為す。其の民は愚にして朴、私少なく欲寡(すく)なし。作るを知りて蔵するを知らず、与えて其の報を求めず。義の適する所を知らず、礼の将(おこな)う所を知らず。猖狂(しょうきょう)妄行して、乃ち大方を蹈(ふ)む。其の生は楽しむべく、其の死は葬るべし。吾願わくは君、国を去り俗を捐(す)て、道と相輔(あいたす)けて行かんことを」と。
現代語訳
市南子は言った。「あなたの災いの除き方は浅い。豊かな毛の狐や、美しい斑の豹は、山林に棲み、岩穴に潜む。これが静けさだ。夜に動き、昼は隠れる。これが用心だ。飢えや渇きに苦しんでも、朝に川や湖のほとりまで遠く出かけて食を求める。これが落ち着きだ。それでもなお、網や罠の災いを免れない。彼らにどんな罪があろうか。その毛皮が災いを招くのだ。今、魯の国こそが、あなたの毛皮ではないか。私は願う。あなたが身をえぐり、毛皮を捨て、心を洗い、欲を去って、人のいない野に遊ばれることを。南越に村があり、『徳を建てる国』という。その民は愚かで素朴、私心が少なく欲も少ない。作ることは知っているが、蓄えることを知らない。与えても、見返りを求めない。義がどこへ向かうかも知らず、礼がどう行われるかも知らない。気ままに歩き回りながら、それでいて大いなる道を踏んでいる。その生は楽しむに足り、その死は葬るに足る。私は願う。あなたが国を去り、俗を捨て、道とともに歩まれることを」と。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荘子・山木市南宜僚(しなんぎりょう)魯侯に見(まみ)ゆ。魯侯憂色有り。市南子曰く、「君に憂色有るは、何ぞや」と。魯侯曰く、「吾は先王の道を学び、先君の業を修む。吾は鬼を敬い賢を尊び、親しく之を行いて、須臾(しゅゆ)も離居する無し。然れども患いを免れず。吾是を以て憂う」と。
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荘子・山木孔子曰く、「善いかな」と。其の交遊を辞し、其の弟子を去り、大沢に逃る。裘褐(きゅうかつ)を衣(き)、杼栗(ちょりつ)を食らう。獣に入りて群を乱さず、鳥に入りて行を乱さず。鳥獣すら悪(にく)まず。而るを況んや人をや。
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荘子・山木明日、弟子荘子に問いて曰く、「昨日山中の木は、不材を以て其の天年を終うるを得たり。今主人の鴈は、不材を以て死せり。先生は将(は)た何にか処らん」と。荘子笑いて曰く、「周は将に夫の材と不材との間に処らんとす。材と不材との間は、之に似て非なり。故に未だ累(わずら)いを免れず。若し夫れ道徳に乗じて浮游せば則ち然らず。誉れ無く訾(そし)り無く、一たびは竜、一たびは蛇。時と俱に化して、肯(あ)えて専ら為すこと無し。一たびは上り一たびは下り、和を以て量と為し、万物の祖に浮游す。物を物として物に物とせられざれば、則ち胡(なん)ぞ得て累わされんや。此れ黄帝・神農の法則なり。若し夫れ万物の情、人倫の伝は、則ち然らず。合すれば則ち離れ、成れば則ち毀(やぶ)れ、廉(かど)あれば則ち挫かれ、尊ければ則ち議せられ、為す有れば則ち虧(か)け、賢なれば則ち謀られ、不肖なれば則ち欺かる。胡ぞ得て必せんや。悲しいかな。弟子之を志(しる)せ。其れ唯だ道徳の郷か」と。
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