荘子 / 至楽
天下有至樂無有哉?有可以活身者無有哉?今奚為奚據?奚避奚處?奚就奚去?奚樂奚惡?
新字:天下有至楽無有哉?有可以活身者無有哉?今奚為奚拠?奚避奚処?奚就奚去?奚楽奚悪?
書き下し
天下に至楽(しらく)有りや無しや。以て身を活かすべき者有りや無しや。今奚(なに)を為し奚に拠らん。奚を避け奚に処(お)らん。奚に就き奚を去らん。奚を楽しみ奚を悪(にく)まん。
現代語訳
天下に、至高の楽しみというものはあるのか、ないのか。この身を生かしてくれるものは、あるのか、ないのか。今、何をなし、何に拠ればよいのか。何を避け、何に身を置けばよいのか。何に就き、何を去ればよいのか。何を楽しみ、何を憎めばよいのか。
解説
至楽篇は、六つの問いを立て続けに投げかけて始まります。答えは示されません。ただ問うだけです。ここには、既成の答えをいったん全部脇に置く姿勢があります。何を楽しみ、何を憎むべきか。私たちはたいてい、この問いに考えずに答えています。世間が良いとするものを楽しみ、悪いとするものを憎む。しかしそれは、自分で選んだ答えでしょうか。何が本当に自分を生かすのか。この問いを、真剣に立て直したことがあるか。篇の入口で、そう突きつけられています。
この章句が説くこと
至楽有りや六つの問い既成の答えを外す何が身を生かすか
関連する章句
-
荘子・至楽夫れ富める者は、身を苦しめ疾(と)く作(はたら)き、多く財を積みて尽く用うるを得ず。其の形を為むるや亦た外なり。夫れ貴き者は、夜以て日に継ぎ、善否を思慮す。其の形を為むるや亦た疏(そ)なり。人の生や、憂いと倶に生ず。寿なる者は惛惛(こんこん)として、久しく憂えて死せず。何ぞ苦しきや。其の形を為むるや亦た遠し。烈士は天下の為に善を見(あら)わす。未だ以て身を活かすに足らず。吾未だ善の誠に善なるか、誠に不善なるかを知らず。若し以て善と為さば、身を活かすに足らず。以て不善と為さば、以て人を活かすに足る。故に曰く、「忠諫聴かれずんば、蹲循(そんじゅん)して争うこと勿(なか)れ」と。故に夫の子胥(ししょ)は之を争いて以て其の形を残(そこな)えり。争わずんば、名も亦た成らざらん。誠に善有りや無しや。今、俗の為す所と其の楽しむ所とは、吾又た未だ楽の果たして楽なるか、果たして楽ならざるかを知らず。吾夫の俗の楽しむ所を観るに、群を挙げて趣(おもむ)く者は、誙誙然(けいけいぜん)として将に已むを得ざらんとするが如し。而も皆な楽と曰う者は、吾未だ之を楽しまず、亦た未だ之を楽しまずとせざるなり。果たして楽有りや無しや。吾は無為を以て誠に楽と為す。又た俗の大いに苦しむ所なり。故に曰く、「至楽は楽無く、至誉は誉無し」と。
-
荘子・至楽夫れ天下の尊ぶ所の者は、富貴寿善なり。楽しむ所の者は、身安、厚味、美服、好色、音声なり。下(いや)しむ所の者は、貧賎夭悪なり。苦しむ所の者は、身安逸を得ず、口厚味を得ず、形美服を得ず、目好色を得ず、耳音声を得ざるなり。若し得ざれば、則ち大いに憂えて以て懼(おそ)る。其の形を為(おさ)むるや亦た愚なるかな。
-
荘子・至楽天下の是非は果たして未だ定むべからざるなり。然りと雖も、無為は以て是非を定むべし。至楽は身を活かす。唯だ無為のみ幾(ちか)く存す。請う、嘗みに之を言わん。天は無為にして以て之れ清く、地は無為にして以て之れ寧(やす)し。故に両つながら無為にして相合し、万物皆な化す。芒乎(ぼうこ)芴乎(こつこ)として、従(よ)りて出づる無し。芴乎芒乎として、有象(ゆうしょう)無し。万物職職(しょくしょく)として、皆な無為より殖(ふ)ゆ。故に曰く、「天地は無為なり、而も為さざる無し」と。人や、孰(たれ)か能く無為を得んや。
-
荘子・至楽列子道に行食(こうしょく)す。従(かたわ)らに百歳の髑髏を見る。蓬(よもぎ)を攓(と)りて之を指して曰く、「唯だ予と汝とのみ而(すなわ)ち未だ嘗て死せず、未だ嘗て生きざるを知る。若(なんじ)は果たして養(やす)きか。予は果たして歓(たの)しきか」と。
-
荘子・至楽荘子楚に之く。空髑髏(くうどくろ)を見る。髐然(こうぜん)として形有り。撽(う)つに馬捶(ばすい)を以てし、因りて之に問いて曰く、「夫子は生を貪り理を失いて、此を為せるか。将(は)た子に亡国の事、斧鉞(ふえつ)の誅有りて、此を為せるか。将た子に不善の行有り、父母妻子に醜(はじ)を遺すを愧じて、此を為せるか。将た子に凍餒(とうだい)の患い有りて、此を為せるか。将た子の春秋故(もと)より此に及べるか」と。是に於いて語り卒(お)わり、髑髏を援(ひ)きて枕として臥す。
-
荘子・至楽夜半、髑髏夢に見(あら)われて曰く、「子の談は辯士に似たり。子の言う所を視るに、皆な生人の累(わずら)いなり。死すれば則ち此れ無し。子は死の説を聞かんと欲するか」と。荘子曰く、「然り」と。髑髏曰く、「死は、上に君無く、下に臣無し。亦た四時の事無し。従然として天地を以て春秋と為す。南面の王の楽しみと雖も、過ぐる能わず」と。荘子信ぜずして曰く、「吾は司命をして復た子の形を生ぜしめ、子の骨肉肌膚を為り、子の父母妻子・閭里(りょり)・知識に反さしめん。子は之を欲するか」と。髑髏は深く矉(ひそ)め頞(あご)を蹙(しか)めて曰く、「吾安(いず)くんぞ能く南面の王の楽しみを棄てて、復た人間(じんかん)の労を為さんや」と。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る