荘子 / 秋水
夔憐蚿,蚿憐蛇,蛇憐風,風憐目,目憐心。
書き下し
夔(き)は蚿(けん)を憐れみ、蚿は蛇を憐れみ、蛇は風を憐れみ、風は目を憐れみ、目は心を憐れむ。
現代語訳
一本足の夔は、たくさんの足を持つヤスデを羨んだ。ヤスデは足のない蛇を羨んだ。蛇は形のない風を羨んだ。風は動かずに見る目を羨んだ。目は、見ずして知る心を羨んだ。
解説
たった一行で、羨望の連鎖を描いた一段です。一本足は多足を羨み、多足は足なしを羨み、足なしは形なしを羨み、形なしは目を羨み、目は心を羨む。誰もが、自分にないものを羨んでいます。そして面白いのは、羨まれている側もまた、別の何かを羨んでいることです。どこにも、満足している者がいません。私たちも同じで、誰かの能力や環境を羨みますが、その人もまた誰かを羨んでいます。連鎖には終わりがなく、行き着く先もありません。この一行は、その滑稽さを鮮やかに映し出しています。