荘子 / 天運
以富為是者,不能讓祿;以顯為是者,不能讓名;親權者,不能與人柄。操之則慄,舍之則悲,而一無所鑒,以闚其所不休者,是天之戮民也。怨、恩、取、與、諫、教、生、殺,八者,正之器也,唯循大變無所湮者,為能用之。故曰:正者,正也。其心以為不然者,天門弗開矣。」
新字:以富為是者,不能譲禄;以顕為是者,不能譲名;親権者,不能与人柄。操之則慄,舎之則悲,而一無所鑒,以闚其所不休者,是天之戮民也。怨、恩、取、与、諫、教、生、殺,八者,正之器也,唯循大変無所湮者,為能用之。故曰:正者,正也。其心以為不然者,天門弗開矣。」
書き下し
富を以て是と為す者は、禄を譲る能わず。顕を以て是と為す者は、名を譲る能わず。権に親しむ者は、人に柄(へい)を与うる能わず。之を操(と)れば則ち慄(おそ)れ、之を舎(す)つれば則ち悲しむ。而も一(いつ)に鑑(かんが)みる所無くして、以て其の休(や)まざる所を闚(うかが)う者は、是れ天の戮民(りくみん)なり。怨・恩・取・与・諫・教・生・殺の八者は、正の器なり。唯だ大変に循(したが)いて湮(ふさ)がるる所無き者のみ、能く之を用うと為す。故に曰く、正なる者は、正なり。其の心以て然らずと為す者は、天門開かれざらん」と。
現代語訳
富こそが正しいと思う者は、俸禄を人に譲れない。栄達こそが正しいと思う者は、名声を人に譲れない。権力を愛する者は、権柄を人に渡せない。握っていれば失うのが怖くて震え、手放せば悲しくてたまらない。それでいて何ひとつ我が身を省みることなく、休むことなく欲しがり続ける者は、天から罰を受けた民だ。怨み、恩、奪うこと、与えること、諫めること、教えること、生かすこと、殺すこと。この八つは、正すための道具である。ただ大いなる変化に従って、どこにも滞らない者だけが、これを使いこなせる。だから言うのだ。正すとは、まず自分が正しくなることだ、と。心の中でそう思わない者には、天の門は開かれない、と。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荘子・天地夫子曰く、「夫れ道は、万物を覆載(ふさい)する者なり。洋洋乎(ようようこ)として大なるかな。君子は以て心を刳(えぐ)らざるべからず。無為にして之を為す、之を天と謂う。無為にして之を言う、之を徳と謂う。人を愛し物を利する、之を仁と謂う。同じからざるを同じくする、之を大と謂う。行いて崖異(がいい)ならざる、之を寛と謂う。万(よろず)の同じからざるを有つ、之を富と謂う。故に徳を執る、之を紀と謂う。徳の成る、之を立と謂う。道に循(したが)う、之を備と謂う。物を以て志を挫(くじ)かざる、之を完と謂う。君子此の十者に明らかなれば、則ち韜乎(とうこ)として其の事に心するの大なり、沛乎(はいこ)として其の万物の逝(ゆ)くを為すなり。若の若き者は、金を山に蔵し、珠を淵に蔵す。貨財を利とせず、貴富に近づかず。寿を楽しまず、夭を哀しまず。通を栄とせず、窮を醜としず。寿夭倶に忘れ、窮通言うに足らず。一世の利を拘(と)りて以て己が私分と為さず、天下に王たるを以て己が顕に処ると為さず。顕なれば則ち明なり。万物は一府、死生は状を同じくす」と。
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荘子・天道荘子曰く、「吾が師よ、吾が師よ。万物を虀(くだ)くも戻(れい)と為さず。沢は万世に及ぶも仁と為さず。上古より長きも寿と為さず。天地を覆載し、衆形を刻雕(こくちょう)するも朽(こう)と為さず。此を之れ天楽と謂う。故に曰く、天楽を知る者は、其の生や天行、其の死や物化。静かにして陰と徳を同じくし、動きて陽と波を同じくす。故に天楽を知る者は、天怨無く、人非無く、物累無く、鬼責無し。故に曰く、其の動くや天、其の静かなるや地。一心定まりて天下に王たり。其の鬼も祟らず、其の魂も疲れず。一心定まりて万物服す。言うこころは、虚静を以て天地に推し、万物に通ず。此を之れ天楽と謂う。天楽なる者は、聖人の心にして、以て天下を蓄(やしな)うなり」と。
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荘子・在宥天下を在宥(ざいゆう)するを聞くも、天下を治むるを聞かざるなり。之を在(あ)らしむるとは、天下の其の性に淫(いん)せんことを恐るればなり。之を宥(ゆる)すとは、天下の其の徳を遷(うつ)さんことを恐るればなり。天下其の性に淫せず、其の徳を遷さずんば、天下を治むる者有らんや。昔堯の天下を治むるや、天下をして欣欣焉(きんきんえん)として人其の性を楽しましむ。是れ恬(てん)ならざるなり。桀の天下を治むるや、天下をして瘁瘁焉(すいすいえん)として人其の性を苦しましむ。是れ愉(ゆ)ならざるなり。夫れ恬ならず愉ならざるは、徳に非ざるなり。徳に非ずして長久なるべき者は、天下に之れ無し。人大いに喜べば、陽に毗(そ)う。大いに怒れば、陰に毗う。陰陽並び毗えば、四時至らず、寒暑の和成らず。其れ反って人の形を傷(そこな)わんか。人をして喜怒位を失い、居処常無く、思慮自得せず、中道にして章を成さざらしむ。是に於いてか天下始めて喬詰(きょうきつ)・卓鷙(たくし)たり。而る後に盗跖・曾・史の行有り。故に天下を挙げて以て其の善なる者を賞するも足らず、天下を挙げて以て其の悪なる者を罰するも給せず。故に天下の大なるも以て賞罰するに足らず。三代より以下は、匈匈焉(きょうきょうえん)として終に賞罰を以て事と為す。彼何ぞ其の性命の情に安んずるに暇あらんや。而も且つ明を説(よろこ)ぶか、是れ色に淫するなり。聡を説ぶか、是れ声に淫するなり。仁を説ぶか、是れ徳を乱すなり。義を説ぶか、是れ理に悖(もと)るなり。礼を説ぶか、是れ技を相(たす)くるなり。楽を説ぶか、是れ淫を相くるなり。聖を説ぶか、是れ芸を相くるなり。知を説ぶか、是れ疵(きず)を相くるなり。天下将に其の性命の情に安んぜんとせば、之の八者は、存するも可なり、亡(な)きも可なり。天下将に其の性命の情に安んぜざらんとせば、之の八者は、乃ち始めて臠巻(れんけん)・獊嚢(そうのう)して天下を乱すなり。而して天下は乃ち始めて之を尊び之を惜しむ。甚だしいかな天下の惑いや。豈に直(た)だ過ぎて之を去るのみならんや。乃ち斉戒して以て之を言い、跪坐(きざ)して以て之を進め、鼓歌して以て之を儛(ま)う。吾是(かく)の若きを何せんや。故に君子已むを得ずして天下に臨まば、無為に若くは莫し。無為にして、而る後に其の性命の情に安んず。故に身を貴ぶこと天下を為(おさ)むるよりもすれば、則ち以て天下を託すべし。身を愛すること天下を為むるよりもすれば、則ち以て天下を寄すべし。故に君子苟(いやしく)も能く其の五蔵を解(と)く無く、其の聡明を擢(ぬ)く無くんば、尸居(しきょ)して竜見(あら)われ、淵黙(えんもく)して雷声あり、神動きて天随う。従容無為にして万物炊累(すいるい)す。吾又た何ぞ天下を治むるに暇あらんや。
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荘子・列禦寇窮に八極有り、達に三必有り、形に六府有り。美・髯(ぜん)・長・大・壮・麗・勇・敢、八者は俱に人に過ぐるなり。因りて是を以て窮す。縁循(えんじゅん)・偃佒(えんおう)・困畏(こんい)にして人に若かざる、三者は俱に通達す。知慧は外に通じ、勇動は怨み多く、仁義は責め多し。生の情に達する者は傀(かい)なり、知に達する者は肖(しょう)なり。大命に達する者は随い、小命に達する者は遭う。
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荘子・在宥賤(いや)しくして任ぜざるべからざる者は、物なり。卑しくして因らざるべからざる者は、民なり。匿(かく)れて為さざるべからざる者は、事なり。麤(あら)くして陳(の)べざるべからざる者は、法なり。遠くして居らざるべからざる者は、義なり。親しくして広めざるべからざる者は、仁なり。節にして積まざるべからざる者は、礼なり。中にして高からざるべからざる者は、徳なり。一にして易(か)えざるべからざる者は、道なり。神にして為さざるべからざる者は、天なり。故に聖人は天に観て助けず、徳に成りて累(わずら)わず、道に出でて謀らず、仁に会して恃(たの)まず、義に薄(せま)りて積まず、礼に応じて諱(い)まず、事に接して辞せず、法に斉(ひと)しくして乱れず、民を恃みて軽んぜず、物に因りて去らず。物なる者は為すに足る莫し。而も為さざるべからず。天に明らかならざる者は、徳に純ならず。道に通ぜざる者は、自(よ)りて可なる無し。道に明らかならざる者は、悲しいかな。
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荘子・漁父客曰く、「同類相従い、同声相応ずるは、固より天の理なり。吾請う、吾の有する所を釈(お)きて子の以(な)す所を経(おさ)めん。子の以す所の者は、人事なり。天子・諸侯・大夫・庶人、此の四者自ら正しきは、治の美なり。四者位を離るれば乱れ焉より大なるは莫し。官は其の職を治め、人は其の事を憂う。乃ち陵(しの)ぐ所無し。故に田荒れ室露(あ)れ、衣食足らず、徴賦属(つづ)かず、妻妾和せず、長少序無きは、庶人の憂いなり。能は任に勝えず、官事治まらず、行は清白ならず、群下荒怠し、功美有らず、爵禄持たざるは、大夫の憂いなり。廷に忠臣無く、国家昏乱し、工技巧ならず、貢職美ならず、春秋の倫に後(おく)れ、天子に順わざるは、諸侯の憂いなり。陰陽和せず、寒暑時ならず、以て庶物を傷(そこな)い、諸侯暴乱し、擅(ほしいまま)に相攘伐(じょうばつ)して以て民人を残(そこな)い、礼楽節ならず、財用窮匱(きゅうき)し、人倫飭(ととの)わず、百姓淫乱するは、天子有司の憂いなり。今、子は既に上は君侯有司の勢無く、而して下は大臣職事の官無し。而るに擅に礼楽を飭え、人倫を選び、以て斉民を化す。泰(はなは)だ事多からずや。且つ人に八疵(はっし)有り、事に四患有り。察せざるべからざるなり。其の事に非ずして之を事とする、之を摠(そう)と謂う。之を顧みる莫くして之を進むる、之を佞(ねい)と謂う。意を希(うかが)いて言を道(い)う、之を諂(てん)と謂う。是非を択ばずして言う、之を諛(ゆ)と謂う。好んで人の悪を言う、之を讒(ざん)と謂う。交わりを析(さ)き親を離す、之を賊と謂う。詐偽を称誉して以て人を敗悪す、之を慝(とく)と謂う。善否を択ばず、両(ふた)つながら容れ頬適し、偸(ひそ)かに其の欲する所を抜く、之を険と謂う。此の八疵なる者は、外は以て人を乱し、内は以て身を傷る。君子は友とせず、明君は臣とせず。所謂四患なる者は、好んで大事を経(おさ)め、常を変更し易(か)えて、以て功名に挂(か)くる、之を叨(とう)と謂う。知を専らにし事を擅にし、人を侵して自ら用う、之を貪と謂う。過ちを見て更(あらた)めず、諫めを聞きて愈(いよい)よ甚だし、之を很(こん)と謂う。人の己に同じければ則ち可とし、己に同じからざれば、善しと雖も善しとせず、之を矜(きょう)と謂う。此れ四患なり。能く八疵を去り、四患を行う無くして、始めて教うべきのみ」と。
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