荘子 / 天運
北門成問於黃帝曰:帝張咸池之樂於洞庭之野,吾始聞之懼,復聞之怠,卒聞之而惑,蕩蕩默默,乃不自得。」
新字:北門成問於黄帝曰:帝張咸池之楽於洞庭之野,吾始聞之懼,復聞之怠,卒聞之而惑,蕩蕩黙黙,乃不自得。」
書き下し
北門成(ほくもんせい)黄帝に問いて曰く、「帝は咸池(かんち)の楽を洞庭の野に張る。吾始め之を聞きて懼(おそ)れ、復た之を聞きて怠(たい)し、卒(つい)に之を聞きて惑う。蕩蕩(とうとう)黙黙として、乃ち自得せず」と。
現代語訳
北門成が黄帝に尋ねた。「あなたは咸池の音楽を、洞庭の野で演奏されました。私は初めそれを聞いて恐ろしくなり、次に聞いて気が抜け、最後に聞いて訳が分からなくなりました。心はぼんやりと、言葉もなく、自分を保っていられなくなったのです」と。
解説
音楽論として名高い、長い問答の導入部です。北門成は、音楽を聞いて三段階の変化を経験しました。恐れ、脱力、そして困惑。心地よかったとも、感動したとも言わない。むしろ自分を保てなくなったと訴えるのです。優れたものに触れると、私たちは自分の枠が壊されます。それは快い体験とは限りません。まず怖くなり、次に力が抜け、最後には何が何だか分からなくなる。分かりやすく感動できるものは、実は自分の枠の内側にあるものです。本当に大きなものに触れた時、人はうまく感想を言えなくなります。
この章句が説くこと
咸池の楽懼・怠・惑枠が壊される言葉にならない体験
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荘子・天運帝曰く、「女(なんじ)は殆(ほとん)ど其れ然らんかな。吾は之を奏するに人を以てし、之を徴(しる)すに天を以てし、之を行うに礼義を以てし、之を建つるに太清を以てす。夫れ至楽(しがく)なる者は、先ず之に応ずるに人事を以てし、之に順うに天理を以てし、之を行うに五徳を以てし、之に応ずるに自然を以てす。然る後に四時を調理し、万物を太和す。四時迭(たが)いに起こり、万物循(したが)いて生ず。一たびは盛んに一たびは衰え、文武倫経(りんけい)す。一たびは清く一たびは濁り、陰陽調和して、其の声を流光す。蟄虫(ちっちゅう)始めて作(お)こり、吾之を驚かすに雷霆(らいてい)を以てす。其の卒(おわり)に尾無く、其の始めに首無し。一たびは死し一たびは生じ、一たびは僨(たお)れ一たびは起こる。常とする所は窮まり無くして、一も待つべからず。女は故に懼れたるなり。
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荘子・天運吾又た之を奏するに陰陽の和を以てし、之を燭(て)らすに日月の明を以てす。其の声は能く短く能く長く、能く柔らかに能く剛(かた)し。変化斉一(せいいつ)にして、故常(こじょう)を主とせず。谷に在れば谷に満ち、阬(あな)に在れば阬に満つ。郤(げき)を塗(ふさ)ぎ神を守り、物を以て量と為す。其の声は揮綽(きしゃく)たり、其の名は高明なり。是の故に鬼神は其の幽を守り、日月星辰は其の紀を行う。吾之を有窮に止め、之を無止に流す。予(われ)之を慮らんと欲するも知る能わず、之を望むも見る能わず、之を逐(お)うも及ぶ能わず。儻然(とうぜん)として四虚の道に立ち、槁梧(こうご)に倚(よ)りて吟ず。目は見んと欲する所に窮まり、力は逐わんと欲する所に屈す。吾既に及ばざるのみ。形は充ちて空虚なり。乃ち委蛇(いい)に至る。汝委蛇たり。故に怠(たい)せり。
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