荘子 / 天地
堯之師曰許由,許由之師曰齧缺,齧缺之師曰王倪,王倪之師曰被衣。堯問於許由曰:「齧缺可以配天乎?吾藉王倪以要之。」許由曰:「殆哉圾乎天下!齧缺之為人也,聰明叡知,給數以敏,其性過人,而又乃以人受天。彼審乎禁過,而不知過之所由生。與之配天乎?彼且乘人而無天,方且本身而異形,方且尊知而火馳,方且為緒使,方且為物絯,方且四顧而物應,方且應眾宜,方且與物化而未始有恒。夫何足以配天乎?雖然,有族有祖,可以為眾父,而不可以為眾父父。治亂之率也,北面之禍也,南面之賊也。」
新字:堯之師曰許由,許由之師曰齧欠,齧欠之師曰王倪,王倪之師曰被衣。堯問於許由曰:「齧欠可以配天乎?吾藉王倪以要之。」許由曰:「殆哉圾乎天下!齧欠之為人也,聰明叡知,給数以敏,其性過人,而又乃以人受天。彼審乎禁過,而不知過之所由生。与之配天乎?彼且乗人而無天,方且本身而異形,方且尊知而火馳,方且為緒使,方且為物絯,方且四顧而物応,方且応眾宜,方且与物化而未始有恒。夫何足以配天乎?雖然,有族有祖,可以為眾父,而不可以為眾父父。治乱之率也,北面之禍也,南面之賊也。」
書き下し
堯の師を許由と曰う。許由の師を齧缺(げっけつ)と曰う。齧缺の師を王倪(おうげい)と曰う。王倪の師を被衣(ひい)と曰う。堯許由に問いて曰く、「齧缺は以て天に配すべきか。吾は王倪に藉(か)りて以て之を要(もと)めん」と。許由曰く、「殆(あや)ういかな、天下を圾(あや)うくせんか。齧缺の人と為りや、聡明叡知にして、給数(きゅうさく)以て敏なり。其の性は人に過ぎたり。而して又た乃ち人を以て天を受く。彼は過ちを禁ずるに審らかなるも、而も過ちの由りて生ずる所を知らず。之と天に配せんか。彼は且に人に乗じて天無からんとし、方に且に身を本として形を異にせんとし、方に且に知を尊びて火のごとく馳せんとし、方に且に緒(しょ)の使と為らんとし、方に且に物に絯(つな)がれんとし、方に且に四顧して物応ぜんとし、方に且に衆の宜しきに応ぜんとし、方に且に物と化して未だ始めより恒有らざらんとす。夫れ何ぞ以て天に配するに足らんや。然りと雖も、族有り祖有り、以て衆父(しゅうほ)と為すべきも、而も以て衆父の父と為すべからず。治乱の率(さきがけ)なり、北面の禍いなり、南面の賊なり」と。
現代語訳
堯の師を許由といい、許由の師を齧缺といい、齧缺の師を王倪といい、王倪の師を被衣という。堯が許由に尋ねた。「齧缺は天子の位に就けてよいでしょうか。私は王倪の力を借りて、彼を招きたいのですが」。許由は言った。「危うい。天下を危険にさらすことになる。齧缺という人は、聡明で深い知恵があり、頭の回転が速く機敏だ。その素質は人並み外れている。しかも人の力で天の働きを受け止めようとする。彼は過ちを取り締まることには詳しいが、過ちがどこから生まれるのかを知らない。そんな彼を天子の位に就けるのか。彼はきっと人の力を頼って天を忘れ、自分を基準にして他を異物とし、知恵を尊んで火のように走り回り、些事に追い回され、物に縛られ、あちこち見回して物に反応し、大衆の都合に合わせ、物とともに移り変わって、定まった軸を持たないだろう。どうして天子にふさわしいと言えようか。とはいえ、一族を率い、一家を成すことはできる。多くの者の父になることはできるが、父たちの父にはなれない。彼は治乱の引き金であり、臣下としては禍いのもと、君主としては害をなす者だ」と。