信心銘 / 第十六章
得失是非 一時放卻 眼若不眠 諸夢自除 心若不異 萬法一如
新字:得失是非 一時放却 眼若不眠 諸夢自除 心若不異 万法一如
書き下し
得失(とくしつ)是非(ぜひ)、一時(いちじ)に放卻(ほうきゃく)せよ。眼(まなこ)若(も)し眠(ねむ)らずんば、諸夢(しょむ)自(おのづか)ら除(のぞ)かる。心(しん)若(も)し異(こと)ならずんば、萬法(まんぼう)一如(いちにょ)なり。
現代語訳
損得も是非も、一度にまとめて放り出せ。目が眠らなければ、さまざまな夢はおのずと消える。心が分け隔てなければ、あらゆるものはそのまま一つである。
解説
「得失是非、一時放卻」——順に片づけるのではなく、一度に放り出せと言う。損得を整理してから是非を考えるという手順を踏むかぎり、物差しは残ったままだからである。続く比喩が鮮やかだ。「眼若不眠、諸夢自除」。夢を一つずつ追い払う必要はない。目覚めていれば夢は生じない。個々の悩みに個別対応するのではなく、目覚めているかどうかという一点に集約される。そして「心若不異、萬法一如」。世界を一つにするのではなく、心が分けなければ世界はもともと一つだったと分かる。順序が一貫している。世界を変える話は一度も出てこない。この書が扱っているのは、終始こちら側の見方だけである。
この章句が説くこと
放却得失是非一如夢