信心銘 / 第十五章
迷生寂亂 悟無好惡 一切二邊 良由斟酌 夢幻空華 何勞把捉
新字:迷生寂乱 悟無好悪 一切二辺 良由斟酌 夢幻空華 何労把捉
書き下し
迷(まよ)ひは寂亂(じゃくらん)を生(しょう)じ、悟(さと)りに好惡(こうお)無(な)し。一切(いっさい)の二邊(にへん)は、良(まこと)に斟酌(しんしゃく)に由(よ)る。夢幻(むげん)空華(くうげ)、何(なん)ぞ把捉(はそく)を勞(ろう)せん。
現代語訳
迷いは静けさと乱れという区別を生み、悟りには好き嫌いがない。あらゆる二極の対立は、まことに自分のはからいから生じている。夢まぼろし、空に見える花のようなものを、どうして骨を折って掴もうとするのか。
解説
「寂亂」——静けさと乱れ。この対立を作っているのが迷いのほうだ、と順序を逆にしている。ふつうは乱れているから迷うと考えるが、ここでは分けたから乱れが生まれると言う。「一切二邊、良由斟酌」の斟酌は、酒を注ぎ分けるように加減し推し量ること、すなわち計らいである。良かれと思ってする配慮や調整が、そのまま対立の製造元になっている。「空華」は眼病の人に見える幻の花で、仏典で実体のない見え方を指す常套の比喩である。無いものを掴もうとする労力を、この書は繰り返し問題にしてきた。追わない、掴まない。そこに労力を割かないという一点だけが、実践として残る。
この章句が説くこと
寂乱二辺斟酌空華
関連する章句
-
『信心銘』第十六章得失(とくしつ)是非(ぜひ)、一時(いちじ)に放卻(ほうきゃく)せよ。眼(まなこ)若(も)し眠(ねむ)らずんば、諸夢(しょむ)自(おのづか)ら除(のぞ)かる。心(しん)若(も)し異(こと)ならずんば、萬法(まんぼう)一如(いちにょ)なり。
-
『信心銘』第八章纔(わづ)かに是非(ぜひ)有(あ)れば、紛然(ふんぜん)として心(しん)を失(うしな)ふ。二(に)は一(いつ)に由(よ)りて有(あ)り、一(いつ)も亦(ま)た守(まも)る莫(な)かれ。一心(いっしん)生(しょう)ぜざれば、萬法(まんぼう)咎(とが)無(な)し。
-
『信心銘』第七章前(さき)の空(くう)の轉變(てんぺん)するは、皆(みな)妄見(もうけん)に由(よ)る。真(しん)を求(もと)むるを用(もち)ゐず、唯(た)だ須(すべか)らく見(けん)を息(や)むべし。二見(にけん)に住(じゅう)せず、慎(つつし)みて追尋(ついじん)する勿(なか)れ。
-
『信心銘』第五章一種(いっしゅ)通(つう)ぜざれば、兩處(りょうしょ)に功(こう)を失(うしな)ふ。有(う)を遣(や)れば有(う)に沒(ぼっ)し、空(くう)に從(したが)へば空(くう)に背(そむ)く。多言(たごん)多慮(たりょ)なれば、轉(うた)た相應(そうおう)せず。
-
『信心銘』第二十章虛明(こみょう)自(おのづか)ら照(て)らし、心力(しんりき)を勞(ろう)せず。思量(しりょう)の處(ところ)に非(あら)ず、識情(しきじょう)測(はか)り難(がた)し。真如(しんにょ)法界(ほっかい)、他(た)無(な)く自(じ)無(な)し。
-
『信心銘』第十三章好(よ)からざれば神(しん)を勞(ろう)す、何(なん)ぞ疏親(そしん)を用(もち)ゐん。一乘(いちじょう)を取(と)らんと欲(ほっ)せば、六塵(ろくじん)を惡(にく)む勿(なか)れ。六塵(ろくじん)を惡(にく)まざれば、還(かへ)って正覺(しょうがく)に同(おな)じ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る