信心銘 / 第十章
欲知兩段 元是一空 一空同兩 齊含萬象 不見精麤 寧有偏黨
新字:欲知両段 元是一空 一空同両 斉含万象 不見精麤 寧有偏党
書き下し
兩段(りょうだん)を知(し)らんと欲(ほっ)せば、元(もと)是(こ)れ一空(いっくう)なり。一空(いっくう)は兩(りょう)に同(おな)じく、齊(ひと)しく萬象(ばんしょう)を含(ふく)む。精麤(せいそ)を見(み)ず、寧(いづく)んぞ偏黨(へんとう)有(あ)らんや。
現代語訳
二つに分かれたものの正体を知りたければ、もともと同じ一つの空である。その一空は二つの側と等しく、あらゆる現象をひとしく含んでいる。精いなものと粗いものを分けて見ないのだから、どうして偏りや依怙贔屓があろうか。
解説
前章で相互依存として示されたものを、ここでは「一空」と言い直す。注意したいのは「齊含萬象」——ひとしく万象を含む、という言い方である。空はすべてを消し去った真空ではなく、あらゆる現象をそのまま抱えている。何も無いのではなく、選り分けが無い。だから「不見精麤」、上等と下等を分けて見ない。そこから「寧有偏黨」、えこひいきの生じる余地がないという結論が出てくる。公平さの根拠を、努力や倫理ではなく認識の構造に置いているのがこの章の特徴である。偏らないよう気をつける公平さは長続きしない。そもそも上下を分けて見ていなければ、偏りようがない。
この章句が説くこと
一空万象精麤偏党