信心銘 / 第五章
一種不通 兩處失功 遣有沒有 從空背空 多言多慮 轉不相應
新字:一種不通 両処失功 遣有没有 従空背空 多言多慮 転不相応
書き下し
一種(いっしゅ)通(つう)ぜざれば、兩處(りょうしょ)に功(こう)を失(うしな)ふ。有(う)を遣(や)れば有(う)に沒(ぼっ)し、空(くう)に從(したが)へば空(くう)に背(そむ)く。多言(たごん)多慮(たりょ)なれば、轉(うた)た相應(そうおう)せず。
現代語訳
一つのありようが通らなければ、両方ともに働きを失う。「有」を追い払おうとすればかえって有に沈みこみ、「空」に従おうとすればかえって空に背く。言葉が多く思案が多いほど、ますます道と噛み合わなくなる。
解説
「遣有沒有、從空背空」——追い払おうとする対象に、追い払おうとする行為そのものによって捕まってしまう。有を否定するには有を見つめねばならず、見つめた時点で沈んでいる。空を目指せば空が目標という「有」になり、空でなくなる。否定も肯定も同じ罠だという指摘である。「多言多慮、轉不相應」は、そこから出てくる結論だ。言葉を重ね、考えを重ねるほど、ずれは大きくなる。これは思考を軽んじる言葉ではなく、思考では解けない層があるという線引きである。議論を尽くすほど本題から離れていく会議を思えばいい。手数を増やすことが、そのまま解決から遠ざかる場面がある。
この章句が説くこと
有と空遣有没有多言多慮相応