信心銘 / 第三章
圓同太虛 無欠無餘 良由取捨 所以不如 莫逐有緣 勿住空忍
新字:円同太虚 無欠無余 良由取捨 所以不如 莫逐有縁 勿住空忍
書き下し
圓(まど)かなること太虛(たいきょ)に同(おな)じく、欠(か)くる無(な)く餘(あま)る無(な)し。良(まこと)に取捨(しゅしゃ)に由(よ)る、所以(ゆゑ)に如(にょ)ならず。有緣(うえん)を逐(お)ふ莫(な)かれ、空忍(くうにん)に住(じゅう)する勿(なか)れ。
現代語訳
道はまるく大空と同じで、欠けたところも余ったところもない。だが取捨があるために、そのままのもの(如)でなくなる。縁のあるものを追いかけるな。かといって、空だと決めこんでそこに座りこむな。
解説
「圓同太虛、無欠無餘」——完全な円満はすでにあり、足すべきものも引くべきものもない。ならばなぜそう見えないのか。「良に取捨に由る」。取ったり捨てたりするから、そのままのもの(如)でなくなる。後半の二句には、この書のバランス感覚がよく出ている。「有緣を逐ふ莫かれ」だけなら、ただの世捨てになる。だから続けて「空忍に住する勿れ」と釘を刺す。空だ、無だと悟ったつもりで居座るのも、同じ穴の落とし方だという。何かを追うのも病、何も追わないと構えるのも病。禅が「空病」と呼んで最も警戒したのは後者であり、悟りらしさを手に入れた者ほど抜けにくい。
この章句が説くこと
太虚取捨有縁空忍
関連する章句
-
『信心銘』第一章至道(しどう)無難(ぶなん)、唯(た)だ揀擇(けんじゃく)を嫌(きら)ふ。但(た)だ憎愛(ぞうあい)莫(な)ければ、洞然(とうねん)として明白(めいはく)なり。毫釐(ごうり)も差(さ)有(あ)れば、天地(てんち)懸隔(けんかく)す。
-
『信心銘』第五章一種(いっしゅ)通(つう)ぜざれば、兩處(りょうしょ)に功(こう)を失(うしな)ふ。有(う)を遣(や)れば有(う)に沒(ぼっ)し、空(くう)に從(したが)へば空(くう)に背(そむ)く。多言(たごん)多慮(たりょ)なれば、轉(うた)た相應(そうおう)せず。
-
『信心銘』第七章前(さき)の空(くう)の轉變(てんぺん)するは、皆(みな)妄見(もうけん)に由(よ)る。真(しん)を求(もと)むるを用(もち)ゐず、唯(た)だ須(すべか)らく見(けん)を息(や)むべし。二見(にけん)に住(じゅう)せず、慎(つつし)みて追尋(ついじん)する勿(なか)れ。
-
『信心銘』第十二章之(これ)を放(はな)てば自然(じねん)にして、體(たい)に去住(こじゅう)無(な)し。性(しょう)に任(まか)せて道(どう)に合(かな)へば、逍遙(しょうよう)して惱(なやみ)を絕(た)つ。念(ねん)を繫(つな)げば真(しん)に乖(そむ)き、昏沉(こんじん)なるは好(よ)からず。
-
『信心銘』第十章兩段(りょうだん)を知(し)らんと欲(ほっ)せば、元(もと)是(こ)れ一空(いっくう)なり。一空(いっくう)は兩(りょう)に同(おな)じく、齊(ひと)しく萬象(ばんしょう)を含(ふく)む。精麤(せいそ)を見(み)ず、寧(いづく)んぞ偏黨(へんとう)有(あ)らんや。
-
『信心銘』第十九章心(しん)に契(かな)ひて平等(びょうどう)なれば、所作(しょさ)俱(とも)に息(や)む。狐疑(こぎ)淨(きよ)く盡(つ)きて、正信(しょうしん)調直(ちょうじき)なり。一切(いっさい)留(とど)まらず、記憶(きおく)す可(べ)き無(な)し。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る