信心銘 / 第一章
至道無難 唯嫌揀擇 但莫憎愛 洞然明白 毫釐有差 天地懸隔
新字:至道無難 唯嫌揀択 但莫憎愛 洞然明白 毫釐有差 天地懸隔
書き下し
至道(しどう)無難(ぶなん)、唯(た)だ揀擇(けんじゃく)を嫌(きら)ふ。但(た)だ憎愛(ぞうあい)莫(な)ければ、洞然(とうねん)として明白(めいはく)なり。毫釐(ごうり)も差(さ)有(あ)れば、天地(てんち)懸隔(けんかく)す。
現代語訳
究極の道は少しも難しくない。ただ、えり好みを嫌うだけだ。憎むことも愛することもなくなれば、からりと晴れて明らかになる。だが髪の毛ほどの差が生じれば、天と地ほどに隔たってしまう。
解説
信心銘の冒頭であり、この書のすべてがここに畳み込まれている。「至道無難」——道は難しくない、と最初に言い切る。難しくしているのは道ではなく、こちらの「揀擇」=えり好みだという。好き嫌い、損得、正邪。その一つひとつは正しい判断のつもりでも、判断が働いた瞬間に世界は二つに割れる。趙州はのちにこの四字を持ち出して繰り返し弟子を試し、『碧巌録』第二則はこの句から始まる。禅がこの一句をどれほど重く見たかが分かる。恐ろしいのは最後の二句である。「毫釐も差有れば、天地懸隔す」。わずかな傾きだから大丈夫、ではない。入り口での一分の狂いが、進むほどに開いていく。
この章句が説くこと
至道無難揀択憎愛毫釐の差
関連する章句
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『碧巌録』第二則趙州和尚、尋常此の話頭を挙す、只だ是れ唯だ揀択を嫌ふ。此れは是れ三祖の信心銘に云く、「至道無難、唯だ揀択を嫌ふ。但だ憎愛莫ければ、洞然として明白なり」。纔かに是非有れば、是れ揀択、是れ明白。纔かに恁麼に会せば、蹉過し了れり。鉸釘膠粘、何の用をか作すに堪へん。州云く、「是れ揀択、是れ明白」。如今参禅問道、揀択の中に在らずんば、便ち明白裏に坐在す。老僧は明白裏に在らず、汝等還た護惜すや也た無や。汝諸人既に明白裏に在らずんば、且く道へ、趙州什麼の処にか在る。什麼と為てか却つて人をして護惜せしむ。五祖先師嘗て説いて道ふ、「手を垂れ来つて爾に似過す、爾作麼生か会す」。且く道へ、作麼生か是れ垂手の処。鉤頭の意を識取して、定盤星を認むること莫れ。
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『信心銘』第三章圓(まど)かなること太虛(たいきょ)に同(おな)じく、欠(か)くる無(な)く餘(あま)る無(な)し。良(まこと)に取捨(しゅしゃ)に由(よ)る、所以(ゆゑ)に如(にょ)ならず。有緣(うえん)を逐(お)ふ莫(な)かれ、空忍(くうにん)に住(じゅう)する勿(なか)れ。
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『碧巌録』第五十七則僧、趙州に問ふ、「至道無難、唯嫌揀択」。三祖の信心銘、劈頭に便ち這の両句を道ふ。多少の人有りて錯会す。何が故ぞ。至道は本と難無く、亦た難からざるも無し。只だ是れ唯だ揀択を嫌ふのみ。若し恁麼に会せば、一万年も也た未だ夢にも見ざること在り。趙州常に此の語を以て人に問ふ。這の僧此の語を将つて、倒に去いて他に問ふ。若し語上に向かつて覓めば、此の僧却つて天を驚かし地を動かす。若し語句の上に在らずんば、又た且く如何。更に参ぜよ三十年。這箇些子の関捩子、須らく是れ転得して始めて解すべし。虎鬚を捋づるも也た須らく是れ本分の手段にして始めて得べし。這の僧も也た危亡を顧みず、敢へて虎鬚を捋でて便ち道ふ、「此れ猶ほ是れ揀択」。趙州劈口に便ち塞いで道ふ、「田厙奴、什麼の処か是れ揀択」。若し別底に問著せば、便ち脚忙手乱を見ん。争奈せん這の老漢是れ作家なることを。動き得ざる処に向かつて動き、転じ得ざる処に向かつて転ず。爾若し一切の悪毒の言句を透得せば、乃至千差万状、世間の戯論も、皆是れ醍醐の上味なり。若し著実の処に到らば、方に趙州の赤心片片なることを見ん。田厙奴は、乃ち福唐の人の郷語にて人を罵る、意智無きに相似たり。這の僧「此れ猶ほ是れ揀択」と道ひ、趙州「田厙奴、什麼の処か是れ揀択」と道ふ。宗師の眼目、須らく恁麼に至るべし。金翅鳥の海を擘いて直に竜を取つて呑むが如し。雪竇頌して云く。
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『碧巌録』第五十九則挙す。僧、趙州に問ふ、「至道無難、唯嫌揀択。纔かに語言有れば是れ揀択。和尚如何か人の為にする」。州云く、「何ぞ這の語を引き尽くさざる」。僧云く、「某甲只だ念じて這裏に到る」。州云く、「只だ這の至道無難唯嫌揀択」。
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『普勧坐禅儀』第一段 道本円通然れども、毫釐も差有れば天地懸かに隔たり、違順纔かに起れば紛然として心を失す。直饒、会に誇り悟に豊かにして、瞥地の智通を獲、道を得心を明らめて、衝天の志気を挙し、入頭の辺量に逍遥すと雖も、幾んど出身の活路を虧闕す。
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『信心銘』第二章現前(げんぜん)を得(え)んと欲(ほっ)せば、順逆(じゅんぎゃく)を存(そん)する莫(な)かれ。違順(いじゅん)相(あ)ひ爭(あらそ)ふ、是(こ)れを心病(しんびょう)と為(な)す。玄旨(げんし)を識(し)らずして、徒(いたづ)らに念靜(ねんじょう)を勞(ろう)す。
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