史記 / 陳杞世家
靈公其の大夫孔寧・儀行父と皆夏姬に通じ、其の衣を衷にして以て朝に戯る。泄冶諫めて曰、君臣淫乱すれば、民何をか效はんと。靈公以て二子に告ぐ、二子泄冶を殺さんことを請ふ、公禁ぜず、遂に泄冶を殺す。十五年、靈公二子と夏氏に飲む。公二子に戯れて曰、徵舒汝に似たりと。二子曰、亦た公に似たりと。徵舒怒る。靈公酒を罷めて出づ、徵舒弩を廏門に伏せて靈公を射殺す。
新字:靈公其の大夫孔寧・儀行父と皆夏姬に通じ、其の衣を衷にして以て朝に戯る。泄冶諫めて曰、君臣淫乱すれば、民何をか効はんと。靈公以て二子に告ぐ、二子泄冶を殺さんことを請ふ、公禁ぜず、遂に泄冶を殺す。十五年、靈公二子と夏氏に飲む。公二子に戯れて曰、徴舒汝に似たりと。二子曰、亦た公に似たりと。徴舒怒る。靈公酒を罷めて出づ、徴舒弩を廏門に伏せて靈公を射殺す。
書き下し
靈公其の大夫孔寧・儀行父と皆夏姬に通じ、其の衣を衷にして以て朝に戯る。泄冶諫めて曰く、「君臣淫乱すれば、民何をか效はん」と。靈公以て二子に告ぐ、二子泄冶を殺さんことを請ふ、公禁ぜず、遂に泄冶を殺す。十五年、靈公二子と夏氏に飲む。公二子に戯れて曰く、「徵舒汝に似たり」と。二子曰く、「亦た公に似たり」と。徵舒怒る。靈公酒を罷めて出づ、徵舒弩を廏門に伏せて靈公を射殺す。
現代語訳
「上に立つ者が乱れ、諫める者を殺し、人を辱めれば——その報いは、必ず、我が身に返る」——陳の霊公の、身から出た錆による、破滅を描いた一段です。陳の霊公は、二人の重臣(孔寧・儀行父)とともに、夏姫という女性と、(三人ともが、)関係を持ち——あろうことか、その女性の、下着を、(互いに、)内に着込んで、朝廷で、ふざけ合う、という、常軌を逸した、乱脈ぶりでした。国のトップと、その重臣が、公然と、恥知らずな、振る舞いを、していたのです。これを見た、忠臣・泄冶は、正面から、諫めました。「君主と、臣下が、(このように、)淫らに、乱れていては——(それを見ている、)民は、いったい、何を、手本として、見習えば、よいのですか(君臣淫亂、民何效焉)」と。上に立つ者の乱れが、そのまま、下に、伝染することを、鋭く、突いた、正論でした。ところが、霊公は、この諫言を、(反省するどころか、)二人の重臣に、(告げ口するように、)話してしまいます。すると、二人は、「(あの、うるさい)泄冶を、殺してしまいましょう」と、願い出た。——そして、霊公は、それを、止めなかった(公弗禁)。かくして、忠臣・泄冶は、殺されてしまったのです。乱れを、正そうとした、最後の良心が、消えました。そして、その、二年後。霊公は、二人の重臣と、(夏姫の家である)夏氏の館で、酒を飲んでいました。酔った霊公は、(夏姫の息子である)徵舒のことを、(居合わせた)二人の重臣に向かって、こう、からかったのです。「(この、)徵舒は、お前に、似ているな(=お前の子ではないか)」と。すると、二人も、「いや、(むしろ、)殿にこそ、似ておりますぞ」と、(下品な)応酬をした。——これを、聞いていた、徵舒は、(自らの母を、そして、自らの出生を、公然と、侮辱されて、)激しい怒りに、燃えました。そして、霊公が、酒宴を終えて、出てきたところを——厩の門に、弩(いしゆみ)を、伏せて、待ち構え、霊公を、射殺したのです。ここに、上に立つ者の破滅についての教訓があります。第一に、上に立つ者が、(私生活で)乱れ、恥知らずな振る舞いをすれば——それは、必ず、下に、伝染し、組織全体の、規律を、崩壊させるということ(君臣淫亂、民何效焉)。トップの、私的な乱れは、私事では、済まない。第二に、そして、その乱れを、正そうとする、(最後の良心である)忠臣を、(疎んじ、)殺してしまえば——過ちを、正す、最後の機会も、失われ、破滅は、決定的になる(遂殺泄冶)。第三に、さらに——酒席などで、(面白半分に、)人の、最も深い傷(出生・家族)を、公然と、辱めれば——その恨みは、(必ず、)致命的な報いとなって、返ってくるということ(徵舒の弩)。組織やリーダーの立場で、トップの私的な乱れが必ず下に伝染し組織の規律を崩壊させると知ること、それを正す忠臣を殺せば破滅が決定的になると自覚すること、そして面白半分に人の最も深い傷を辱めれば致命的な報いが返ると理解すること——陳霊公の破滅は、上に立つ者への、痛烈な警告を教えます。