史記 / 秦始皇本紀
侯生盧生相與謀曰:「始皇為人,天性剛戾自用,起諸侯,并天下,意得欲從,以為自古莫及己。專任獄吏,獄吏得親幸。博士雖七十人,特備員弗用。丞相諸大臣皆受成事,倚辨於上。上樂以刑殺為威,天下畏罪持祿,莫敢盡忠。上不聞過而日驕,下懾伏謾欺以取容。秦法,不得兼方不驗,輒死。然候星氣者至三百人,皆良士,畏忌諱諛,不敢端言其過。天下之事無小大皆決於上,上至以衡石量書,日夜有呈,不中呈不得休息。
新字:侯生盧生相与謀曰:「始皇為人,天性剛戻自用,起諸侯,并天下,意得欲従,以為自古莫及己。専任獄吏,獄吏得親幸。博士雖七十人,特備員弗用。丞相諸大臣皆受成事,倚弁於上。上楽以刑殺為威,天下畏罪持禄,莫敢尽忠。上不聞過而日驕,下懾伏謾欺以取容。秦法,不得兼方不験,輒死。然候星気者至三百人,皆良士,畏忌諱諛,不敢端言其過。天下之事無小大皆決於上,上至以衡石量書,日夜有呈,不中呈不得休息。
書き下し
侯生盧生相与に謀りて曰く、「始皇の人と為り、天性剛戻自用なり。諸侯を起こし、天下を并せ、意を得欲を従にし、以て自古己に及ぶ莫しと為す。専ら獄吏に任じ、獄吏親幸を得。博士七十人と雖も、特だ員に備へて用ゐず。上刑殺を以て威と為すを楽しみ、天下罪を畏れ祿を持し、敢へて忠を尽くす莫し。上過を聞かずして日に驕り、下懾伏し謾欺して以て容を取る。天下の事小大と無く皆上に決す、上至りて衡石を以て書を量る」と。
現代語訳
侯生と盧生は相談して言った。「始皇という人は、生まれつき強情で人の言を聞かず、自分のやり方を押し通す。諸侯を打ち倒し、天下を併合し、思うままに欲望をほしいままにして、いにしえより自分に及ぶ者はないと思っている。もっぱら獄吏ばかりを用い、獄吏だけが寵愛を得ている。博士は七十人いるが、ただ員数を揃えているだけで用いていない。主上は刑罰と処刑を威勢とすることを喜び、天下は罪を恐れて俸禄にしがみつき、誰も忠を尽くそうとしない。主上は自分の過ちを聞かされないまま日ごとに驕り、下の者は畏れ縮こまり、ごまかして機嫌を取る。天下の事は大小を問わずすべて主上が決裁し、主上は書類を重さ(衡石)で量るほど(の量を毎日処理している)」。
解説

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説苑・反質秦の始皇既に天下を兼ねて、大いに侈靡し、位に即くこと三十五年猶お息まず、大馳道を治め、九原自り雲陽に抵り、山を塹り谷を堙めて直に之に通ず。先王の宮室の小なるを厭い、乃ち豐鎬の間、文武の處に於て、朝宮を營作す、渭南の山林苑中に前殿を作る、阿房東西五百步、南北五十丈、上は萬人を坐すべく、下は五丈の旗を建つべし、周りに閣道を為す。殿自り直ちに南山の嶺に抵りて以て闕と為し、複道を為し、阿房自り渭水を渡りて咸陽に屬し、以て天極に象り、閣道漢を絕ち、營室に抵るなり。又驪山の役を興し、三泉の底を錮め、關中の離宮三百所、關外四百所、皆鐘磐帷帳、婦女倡優有り。石闕を東海上朐山の界中に立て、以て秦の東門と為す。是に於て方士韓客侯生、齊客盧生有り、相與に謀りて曰く、「當今の時は以て居るべからず、上は刑殺を以て威と為すを樂しみ、天下罪を畏る。祿を持して敢えて盡忠せず、上は過を聞かずして日に驕り、下は懾伏して以て慢欺して容を取り、諫者用いられずして道を失うこと滋よ甚し。吾が黨久しく居らば、且に害せらる所と為らんとす。」乃ち相與に亡げ去る。始皇之を聞きて大いに怒り、曰く、「吾異日盧生を厚くし、爵を尊びて之に事えしむ、今乃ち我を誹謗す、吾諸生多く妖言を為して以て黔首を亂すと聞く。」乃ち御史をして悉く諸生を上げしむ、諸生傳えて相い告げ、法を犯す者四百六十餘人、皆之を坑にす。盧生は得ず、而して侯生後に得らる、始皇之を聞きて、召して之に見え、阿東の臺に升り、四通の街に臨み、將に數えて之を車裂かんとす。始皇侯生を望見して、大いに怒りて曰く、「老虜不良、而が主を誹謗し、迺ち敢えて復た我に見ゆるか!」侯生至りて、臺を仰ぎて言いて曰く、「臣聞く、死を知れば必ず勇なりと、陛下臣の一言を聽くを肯んぜんか?」始皇曰く、「若何をか言わんと欲する?之を言え!」侯生曰く、「臣聞く、禹誹謗の木を立つるは、以て過を知らんと欲すればなり。今陛下奢侈にして本を失い、淫泆にして末に趨き、宮室臺閣、連屬增累し、珠玉重寶、積襲して山を成し、錦繡文采、府に滿ちて餘り有り、婦女倡優、數巨萬人、鍾鼓の樂、流漫窮まり無く、酒食珍味、盤錯して前に有り、衣服輕暖、輿馬文飾、以て自ら奉ずる所、麗靡爛熳、勝げて極むべからず。黔首匱竭し、民力單盡し、尚お自ら知らず、又誹謗を急にし、嚴威もて下を克ち、下喑上聾、臣等故に去れり。臣等は臣が身を惜しまず、陛下の國の亡ぶるを惜しむのみ。聞く古の明王は、食は以て飽くに足り、衣は以て暖なるに足り、宮室は以て處るに足り、輿馬は以て行くに足る、故に上は天に棄てられず、下は黔首に棄てられず。堯は茅茨剪らず、采椽斲らず、土階三等にして、身を終うるまで樂しみし者は、俗其の文采の少なくして、質素の多きを以てなり。丹朱傲虐にして慢淫を好み、理化を修めず、遂に以て升らず。今陛下の淫、丹朱に萬し昆吾桀紂に十す、臣陛下の十亡を恐る、而して曾て一存だにせず。」始皇默然として之を久しくし、曰く、「汝何ぞ早く言わざる?」侯生曰く、「陛下の意、方に青雲に乘りて文章の觀に飄搖し、自ら賢とし自ら健とし、上五帝を侮り、下三王を凌ぎ、素樸を棄て、末技に就く、陛下の亡徵見えて久し。臣等言うも益無きを恐れ、而して自ら死を取る、故に逃れて敢えて言わず。今臣必ず死す、故に陛下の為に之を陳ぶ、陛下をして亡びざらしむる能わずと雖も、陛下自ら知らしめんと欲す。」始皇曰く、「吾以て變ずべきか?」侯生曰く、「形已に成れり、陛下坐して亡を待つのみ!若し陛下之を更めんと欲せば、能く堯と禹との如くならんか?然らずんば冀む無し。陛下の佐も又非なり、臣陛下の之を變ずるも存する能わざるを恐る。」始皇喟然として歎じ、遂に釋きて誅せず。後三年始皇崩ず、二世位に即き、三年にして秦亡ぶ。
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史記 秦始皇本紀秦海内を并せ、諸侯を兼ね、南面して帝と称し、以て四海を養ふ。天下の士斐然として風に郷ふ。是の若きは何ぞや。曰く、近古の王無きこと久し。周室卑微にして、五霸既に歿し、令天下に行はれず。是を以て諸侯力政し、彊は弱を侵し、衆は寡を暴し、兵革休まず、士民罷敝す。今秦南面して天下に王たり、是れ上に天子有るなり。既に元元の民其の性命を安んずるを得んことを冀ひ、心を虚しくして上を仰がざる莫し。此の時に当たり、威を守り功を定むるは、安危の本此に在り。秦王貪鄙の心を懐き、自奮の智を行ひ、功臣を信ぜず、士民に親しまず、王道を廃し、私権を立て、文書を禁じて刑法を酷にし、詐力を先にして仁義を後にし、暴虐を以て天下の始めと為す。夫れ并兼する者は詐力を高び、安定する者は順権を貴ぶ。此れ取ると守ると術を同じくせざるを言ふなり。秦戦国を離れて天下に王たるも、其の道易へず、其の政改めず。是れ其の之を取る所以と之を守る所以と異なる無きなり。孤独にして之を有つ、故に其の亡ぶこと立ちて待つ可し。借使秦王上世の事を計り、殷周の跡を并せ、以て其の政を制御せば、後に淫驕の主有りと雖も、未だ傾危の患ひ有らざるなり。故に三王の天下を建つるや、名号顕美にして、功業長久なり。今秦の二世立つや、天下領を引きて其の政を観ざる莫し。夫れ寒ゆる者は裋褐を利とし、饑うる者は糟糠を甘しとす。天下の嗷嗷たるは、新主の資なり。此れ労民の仁を為し易きを言ふなり。
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