史記 / 夏本紀
禹の人と為り敏給にして克く勤む。其の徳違はず、其の仁親しむ可く、其の言信ずる可し。声は律と為り、身は度と為り、稱以て出づ。亹亹穆穆として、綱と為り紀と為る。
書き下し
禹の人と為り敏給にして克く勤む。其の徳違はず、其の仁親しむ可く、其の言信ずる可し。声は律と為り、身は度と為り、稱以て出づ。亹亹穆穆として、綱と為り紀と為る。
現代語訳
「勤勉で、徳が揺るがず、親しみやすく、言葉に信がある」——治水の英雄・禹の人柄を、簡潔に描いた一段です。夏王朝の始祖・禹は、どのような人物だったのか。史記は、その人柄を、いくつかの言葉で的確に描きます。まず「敏給にして克く勤む(敏給克勤)」——頭の回転が速く行動も機敏でありながら、こつこつと勤勉に努力を重ねる人物でした。才気と勤勉さを、併せ持っていたのです。次に、その徳と人柄。「其の徳違はず(其德不違)」——その徳(正しさ)は、状況や相手によってぶれることなく、一貫していた。「其の仁親しむ可く(其仁可親)」——その思いやりは、人が自然と親しみを寄せたくなるほど、温かかった。「其の言信ずる可し(其言可信)」——その言葉には偽りがなく、信頼して頼ることができた。さらに、その振る舞いは、それ自体が基準となるほど、正確で節度がありました。「声は律と為り、身は度と為る(聲為律、身為度)」——その声は音律の基準となり、その身のこなしは度量衡の基準となるほど、整っていた。そして「亹亹穆穆(努め励み、おごそかで慎み深い)」として、人々の手本、社会の規範(綱紀)となったのです。ここに、信頼される人物像についての教訓があります。第一に、才気(敏給)と勤勉(克勤)は、どちらか一方ではなく、両立してこそ真価を発揮するということ。頭が切れるだけでも、ただ真面目なだけでも足りない。機敏な才と、地道な努力の、両方を備えること。第二に、徳が状況や相手でぶれない一貫性(其德不違)、人が親しめる温かさ(其仁可親)、言葉に偽りのない信頼性(其言可信)——この三つが、人が慕い、頼る人物の核心だということ。ぶれない、温かい、信じられる。第三に、その人自身の振る舞いが、基準・手本となるほど、正確で慎み深いこと(身為度、為綱為紀)。上に立つ者は、自らが規範となる。組織や人生で、才気と勤勉を両立させること、ぶれない徳・親しめる温かさ・信じられる言葉を備えること、そして自らの振る舞いが手本となるよう律すること——禹の人柄は、信頼される人物の条件を教えます。