史記 / 貨殖列伝
積著之理,務完物,無息幣。以物相貿易,腐敗而食之貨勿留,無敢居貴。論其有餘不足,則知貴賤。貴上極則反賤,賤下極則反貴。貴出如糞土,賤取如珠玉。財幣欲其行如流水。
新字:積著之理,務完物,無息幣。以物相貿易,腐敗而食之貨勿留,無敢居貴。論其有余不足,則知貴賤。貴上極則反賤,賤下極則反貴。貴出如糞土,賤取如珠玉。財幣欲其行如流水。
書き下し
計然曰く、「旱には則ち舟を資り、水には則ち車を資るは、物の理なり。積著の理は、物を完うするを務め、幣を息ましむる無し。腐敗して食するの貨は留むる勿かれ、敢へて貴に居る無かれ。其の有餘不足を論ずれば、則ち貴賤を知る。貴上極まれば則ち反りて賤しく、賤下極まれば則ち反りて貴し。貴きは出だすこと糞土のごとくし、賤しきは取ること珠玉のごとくす。財幣は其の行くこと流水のごとくならんことを欲す」と。
現代語訳
計然は言った。「日照りのときには舟を仕込み、水害のときには車を仕込む。これが物事の道理である。物を蓄える道理は、品物を傷めないよう保つことに努め、資金を寝かせないことだ。腐敗しやすい食べ物の類は在庫として留めてはならず、値上がりを当て込んで抱え込んではならない。品物の余剰と不足を見きわめれば、値が上がるか下がるかが分かる。値が上がりきれば必ず反転して安くなり、下がりきれば必ず反転して高くなる。高いときには糞土を捨てるように売り払い、安いときには珠玉を拾うように買い集める。財貨は、流れる水のように動かすのがよい」。
解説
「先を読んで、皆が見向きもしないときに仕込み、極端は必ず反転すると心得る」——経済の達人・計然が説いた、時勢を読む商いの原理を描いた一段です。越の再興を支えた計然は、富を築く原理を、こう説きます。まず、先を読んで仕込むこと。「日照り(旱)のときにこそ、(次に来る洪水に備えて)舟を仕入れ、洪水(水)のときにこそ、(次に来る日照りに備えて)車を仕入れておく。これが物事の道理だ(旱則資舟、水則資車、物之理也)」と。皆が必要としていない今のうちに、次に必要とされるものを、安く仕込んでおく。逆張りの先読みです。次に、在庫と資本の扱い。「蓄えの原則は、品物を良い状態に保つことに努め、資金を(使わずに)遊ばせておかないこと(務完物、無息幣)。腐りやすい品物を、(値上がりを待って)抱え込んではならない。(強欲に)高値を待って売り渋ってはならない(無敢居貴)」と。そして、価格の道理。「品物の需給(有り余りと不足)を見れば、その値の高い安いが分かる。値は、上がりきれば、必ず反転して下がり、下がりきれば、必ず反転して上がる(貴上極則反賤、賤下極則反貴)」。だからこそ、「高くなったものは、汚物を捨てるように、惜しまず売り払い(貴出如糞土)、安くなったものは、珠玉を拾うように、進んで買い入れる(賤取如珠玉)」。最後に、資本の循環。「お金は、流れる水のように、たえず巡らせるべきものだ(財幣欲其行如流水)」と。ここに、商いと経営の原理についての教訓があります。第一に、先を読んで、皆がまだ見向きもしないときに、次に必要とされるものを仕込んでおくこと(旱則資舟、水則資車)。皆が殺到してからでは遅い。需要を先取りする逆張りの視点が、大きな成果を生む。第二に、物事の値や勢いは、極端まで行けば必ず反転すると心得ること(貴上極則反賤、賤下極則反貴)。高騰しているものにいつまでも強欲にしがみつかず、暴落しているものを恐れず拾う。過熱と悲観の両極を、冷静に見る。第三に、資源(資本・在庫)を、遊ばせず、抱え込まず、たえず循環させること(財幣欲其行如流水、無息幣)。動かしてこそ、資源は価値を生む。組織や事業で、需要を先取りして皆が動く前に仕込むこと、極端は必ず反転すると心得て過熱にも悲観にも流されないこと、そして資源を遊ばせず循環させること——計然の原理は、時勢を読む経営の要諦を教えます。
この章句が説くこと
計然旱則資舟水則資車先を読んで仕込む逆張り貴上極則反賤賤下極則反貴極端は反転する