史記 / 日者列伝
居三日,宋忠見賈誼於殿門外,乃相引屏語相謂自嘆曰:「道高益安,勢高益危。居赫赫之勢,失身且有日矣。夫卜而有不審,不見奪糈;爲人主計而不審,身無所處。此相去遠矣,猶天冠地屨也。此老子之所謂『無名者萬物之始』也。天地曠曠,物之熙熙,或安或危,莫知居之。我與若,何足預彼哉!彼久而愈安,雖曾氏之義未有以異也。」 久之,宋忠使匈奴,不至而還,抵罪。而賈誼爲梁懷王傅,王墮馬薨,誼不食,毒恨而死。此務華絶根者也。
新字:居三日,宋忠見賈誼於殿門外,乃相引屏語相謂自嘆曰:「道高益安,勢高益危。居赫赫之勢,失身且有日矣。夫卜而有不審,不見奪糈;為人主計而不審,身無所処。此相去遠矣,猶天冠地屨也。此老子之所謂『無名者万物之始』也。天地曠曠,物之熙熙,或安或危,莫知居之。我与若,何足預彼哉!彼久而愈安,雖曽氏之義未有以異也。」 久之,宋忠使匈奴,不至而還,抵罪。而賈誼為梁懐王傅,王堕馬薨,誼不食,毒恨而死。此務華絶根者也。
書き下し
居ること三日、宋忠賈誼を殿門の外に見、乃ち相引きて屏語し相謂ひて自ら嘆じて曰く、「道高ければ益ます安く、勢高ければ益ます危し。赫赫の勢に居れば、身を失ふこと且に日有らんとす。彼久しくして愈いよ安し」と。久しくして、宋忠匈奴に使ひし、至らずして還り、罪に抵る。而して賈誼梁懐王の傅と為り、王馬より墮ちて薨じ、誼食らはず、毒恨して死す。此れ華を務めて根を絶つ者なり。
現代語訳
三日後、宋忠は賈誼と宮殿の門の外で会い、二人は連れ立って人目を避けて語り合い、ため息をついて言った。「道が高ければ高いほど安全で、権勢が高ければ高いほど危うい。輝かしい権勢の座にいれば、身を滅ぼす日はやがて来る。あの占い師は、長くいればいるほど安泰なのだ」。しばらくして、宋忠は匈奴へ使いに出たが、到着しないうちに引き返し、罪に問われた。賈誼は梁の懐王の傅となったが、王が落馬して死ぬと、賈誼は食を絶ち、悔恨のうちに死んだ。これこそ、花を咲かせようとして根を絶った者である。
解説
「徳を高めれば高めるほど安全になるが、権勢を高めれば高めるほど危うくなる」——占い師に諭された二人の高官の、その後を描いた、この篇の結びです。占い師・司馬季主の見識に打ちのめされた宋忠と賈誼は、三日後、宮殿の門の外で再会し、人目を避けて、しみじみと語り合い、嘆息しました。「あの占い師の言う通りだ。徳(道)を高めれば高めるほど、人はますます安らかになる。しかし、権勢(勢)を高めれば高めるほど、人はますます危うくなる(道高益安、勢高益危)。我々のように、赫々たる権勢の座にある者は、いつ足をすくわれて身を滅ぼしても、おかしくない。あの占い師は、(権勢を求めぬからこそ)時が経つほど、ますます安らかでいられるのだ」と。地位の高さを誇っていた二人が、かえって己の危うさを悟ったのです。そして、この嘆きは、現実のものとなります。時を経て、宋忠は匈奴への使者となりましたが、目的地に到達できずに引き返し、その責任を問われて罪に落ちました。一方、賈誼は、梁の懐王の教育係となりましたが、その王が落馬して急死すると、(自分の職責を果たせなかったことを)悔い、食を絶ち、深い恨みのうちに死んでいったのです。高い才を持ちながら、権勢の座に身を置いた二人は、いずれも、その身を全うできませんでした。司馬遷は、この二人を、こう評します。「これは、(根を養うことを忘れて)華やかな花ばかりを求め、その根を絶ってしまった者たちだ(務華絕根者也)」と。ここに、徳と権勢についての教訓があります。第一に、徳を高めることは人を安らかにするが、権勢を高めることは、かえって人を危うくするということ(道高益安、勢高益危)。権勢の座は、高ければ高いほど、妬まれ、狙われ、失えば転落も大きい。目に見える権勢より、目に見えない徳を養うことが、長い目で見た安泰につながる。第二に、華やかな地位や名声(華)ばかりを追い求め、それを支える根本(根)——人格・徳・実力——を養うことを忘れれば、やがて根が絶えて、花も枯れるということ(務華絕根)。第三に、目先の栄達に心を奪われず、地に足のついた根本を、地道に養うことの大切さ。組織や人生で、権勢を高めることの危うさと徳を養うことの安泰を知ること、華やかな地位や名声より根本の人格・実力を養うこと、そして目先の栄達でなく地に足のついた根を養うこと——二人の高官の末路は、「華を務めて根を絶つ」ことの戒めを、痛切に教えます。
この章句が説くこと
日者列伝道高益安勢高益危徳を高めれば安く権勢を高めれば危うい務華絶根華より根を養う人格と実力
この一句を、あなたの毎日に。
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