史記 / 佞幸列伝
文帝崩じ、景帝立ち、鄧通免ぜられ、家居す。居ること無何、人に鄧通盗みて徼外に出でて銭を鋳ると告ぐる有り。下吏験問し、頗る之れ有り、遂に竟に案じ、尽く鄧通の家を没入し、尚ほ責を負ふこと数巨萬なり。竟に一銭をも名づくるを得ず、人の家に寄死す。
新字:文帝崩じ、景帝立ち、鄧通免ぜられ、家居す。居ること無何、人に鄧通盗みて徼外に出でて銭を鋳ると告ぐる有り。下吏験問し、頗る之れ有り、遂に竟に案じ、尽く鄧通の家を没入し、尚ほ責を負ふこと数巨万なり。竟に一銭をも名づくるを得ず、人の家に寄死す。
書き下し
文帝崩じ、景帝立ち、鄧通免ぜられ、家居す。居ること無何、人に「鄧通盗みて徼外に出でて銭を鋳る」と告ぐる有り。下吏験問し、頗る之れ有り、遂に竟に案じ、尽く鄧通の家を没入し、尚ほ責を負ふこと数巨萬なり。竟に一銭をも名づくるを得ず、人の家に寄死す。
現代語訳
「たった一人の後ろ盾に依存した地位は、その後ろ盾を失えば、跡形もなく崩れ去る」——絶大な富貴を極めた鄧通の、あまりに惨めな末路を描いた一段です。文帝の寵愛を一身に受けた鄧通は、莫大な富を与えられ、この世の栄華を極めていました。しかし、その栄華は、ただ文帝一人の寵愛の上に、成り立っていたのです。やがて文帝が崩御し、(かつて鄧通を恨んでいた)太子が、景帝として即位すると、状況は一変します。鄧通は、たちまち官職を解かれ、家に引きこもる身となりました。それから間もなく、「鄧通が、ひそかに国境の外で、(法を犯して)貨幣を鋳造している」と密告する者が現れます。役人が取り調べると、確かにその事実があったため、徹底的に追及され、鄧通の財産は、すべて没収されてしまいました。それでもなお、数億にのぼる負債が残ったのです。かつて、皇帝から貨幣鋳造の権利まで与えられ、「鄧氏銭」が天下に流通したほどの大富豪が、最後には、自分の名義の銭は一文も持てず(竟不得名一錢)、他人の家に身を寄せて、そこで惨めに死んだ(寄死人家)のです。ここに、依存した地位の脆さについての教訓があります。第一に、たった一人の後ろ盾(庇護者)の寵愛だけに依存して築いた地位や富は、その後ろ盾を失った途端、跡形もなく崩れ去るということ。鄧通の栄華は、文帝という一本の柱で支えられていた。その柱が倒れれば、すべてが崩れる。実力や、多くの人からの信頼という土台がなければ、地位はこれほど脆い。第二に、寵愛を失ったとき、かつて恐れて従っていた者たちが、一転して攻撃に回るということ。密告者が現れ、役人が容赦なく追及した——権勢があるうちは近寄らなかった者たちが、失脚と見るや、一斉に牙をむいた。第三に、絶頂にあるときこそ、その地位が何によって支えられているのか、その脆さを自覚しておくべきだということ。組織や人生で、一人の後ろ盾だけに依存した地位の脆さを知ること、寵愛を失えば人々が一転して攻撃に回ると自覚すること、そして絶頂のときこそ自らの地位の土台の危うさを省みること——鄧通の末路は、依存した富貴の儚さを、痛烈に教えます。