史記 / 大宛列伝
騫為人彊力,寬大信人,蠻夷愛之。堂邑父故胡人,善射,窮急射禽獸給食。初,騫行時百餘人,去十三歲,唯二人得還。 騫身所至者大宛、大月氏、大夏、康居,而傳聞其旁大國五六,具為天子言之。
新字:騫為人彊力,寛大信人,蠻夷愛之。堂邑父故胡人,善射,窮急射禽獣給食。初,騫行時百余人,去十三歳,唯二人得還。 騫身所至者大宛、大月氏、大夏、康居,而伝聞其旁大国五六,具為天子言之。
書き下し
騫の為人彊力にして、寛大にして人を信じ、蛮夷之を愛す。堂邑父は故と胡人なり、善く射、窮急すれば禽獣を射て食を給す。騫身ら至る所の者は大宛・大月氏・大夏・康居なり、而して其の旁の大国五六を伝聞し、具に天子の為に之を言ふ。
現代語訳
張騫の人柄は頑健で、寛大で人を信じたので、蛮夷の人々に愛された。堂邑父はもともと匈奴の人で、弓が上手く、困窮すると鳥獣を射て食糧を確保した。張騫が自ら訪れたのは大宛・大月氏・大夏・康居である。そのほか周辺の大国五、六か国についても伝え聞き、つぶさに天子に報告した。
解説
「たくましさと、寛大で人を信じる人柄が、異郷でも人に愛される——そして、支える仲間の存在」——張騫という人物の魅力と、その旅を支えた同行者を描いた一段です。過酷な西域行を成し遂げた張騫は、どのような人物だったのか。史記は簡潔に記します。「張騫の人となりは、たくましく力強く(彊力)、寛大で人を信じ(寬大信人)、そのため、異郷の異民族たちからも愛された(蠻夷愛之)」と。困難に耐える強靭さと、人を疑わず大らかに信じる度量。この二つを併せ持っていたからこそ、彼は、言葉も文化も異なる遠国の人々からさえ、好意と信頼を寄せられたのです。そして、この長い旅は、張騫一人の力で成し遂げられたのではありません。彼には、堂邑父という、かけがえのない同行者がいました。堂邑父は、もとは匈奴出身の者で、弓の名手でした。旅の途中、食料も尽きて絶体絶命の窮地に陥ったとき、堂邑父が鳥や獣を射止めて、一行の食をつないだ(窮急射禽獸給食)のです。この頼もしい仲間がいたからこそ、張騫は生き延び、大宛・大月氏・大夏・康居といった遠国にまで到達し、さらにその周辺の大国の情報まで持ち帰って、天下にもたらすことができました。ここに、人柄と仲間についての教訓があります。第一に、困難に耐えるたくましさ(彊力)と、人を疑わず大らかに信じる寛大さ(寬大信人)を併せ持つ人柄が、異なる文化・立場の人々からさえ、信頼と好意を得るということ。強さだけでも、優しさだけでも足りない。その両立が、広く人に愛される土台となる。第二に、大きな事業は、けっして一人では成し遂げられず、それを支える有能で頼もしい仲間の存在が不可欠だということ。堂邑父の弓がなければ、張騫は飢えて倒れていた。窮地でこそ、仲間の真価が発揮される。第三に、その仲間の貢献を、正当に認め、記憶すること(史記は堂邑父の名と功を記した)。組織や事業で、たくましさと人を信じる寛大さを併せ持つこと、大事は有能で頼もしい仲間があってこそ成ると知ること、そして支えてくれる仲間の貢献を正当に認めること——張騫の人柄と堂邑父の逸話は、人に愛される資質と、仲間の大切さを教えます。
この章句が説くこと
張騫彊力寛大信人蛮夷愛之たくましさと寛大さの両立異文化でも愛される人柄堂邑父仲間の存在