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史記 / 大宛列伝

漢方に胡を滅ぼすを事とせんと欲し、能く使ひする者を募る。騫郎を以て募に応じ、月氏に使ひす。匈奴を経、匈奴之を得、伝へて単于に詣らしむ。単于之を留めて曰、月氏は吾が北に在り、漢何を以て往きて使ひするを得んや。騫を留むること十餘歳、妻を与へ、子有り、然れども騫漢節を持して失はず。単于死し、国内乱れ、騫胡妻及び堂邑父と俱に亡げて漢に帰る。初め、騫の行く時百餘人、去りて十三歳、唯だ二人のみ還るを得たり。

新字:漢方に胡を滅ぼすを事とせんと欲し、能く使ひする者を募る。騫郎を以て募に応じ、月氏に使ひす。匈奴を経、匈奴之を得、伝へて単于に詣らしむ。単于之を留めて曰、月氏は吾が北に在り、漢何を以て往きて使ひするを得んや。騫を留むること十余歳、妻を与へ、子有り、然れども騫漢節を持して失はず。単于死し、国内乱れ、騫胡妻及び堂邑父と俱に亡げて漢に帰る。初め、騫の行く時百余人、去りて十三歳、唯だ二人のみ還るを得たり。

書き下し

漢方に胡を滅ぼすを事とせんと欲し、能く使ひする者を募る。騫郎を以て募に応じ、月氏に使ひす。匈奴を経るに、匈奴之を得、伝へて単于に詣らしむ。単于之を留めて曰く、「月氏は吾が北に在り、漢何を以て往きて使ひするを得んや」と。騫を留むること十餘歳、妻を与へ、子有り、然れども騫漢節を持して失はず。単于死し、国内乱れ、騫胡妻及び堂邑父と俱に亡げて漢に帰る。初め、騫の行く時百餘人、去りて十三歳、唯だ二人のみ還るを得たり。

現代語訳

「どれほど長い歳月、困難に囲まれても、託された使命と初心を手放さない」——シルクロードを開いた張騫の、驚くべき忍耐を描いた一段です。漢は匈奴を討とうと、その敵である月氏と同盟を結ぶべく、危険な西域への使者を募りました。張騫は、これに応じて旅立ちます。しかし、月氏へ向かう道は匈奴の勢力圏を通らねばならず、案の定、張騫は匈奴に捕らえられてしまいました。匈奴の単于は「月氏は我々の北にある。漢が我々の領土を越えて、そこへ使者を送れるはずがなかろう」と言い、張騫を抑留します。その抑留は、なんと十年以上に及びました。単于は、張騫を懐柔しようと妻をあてがい、子まで生まれました。それでも——「張騫は、漢の使者である証(漢節)を、けっして手放さなかった(持漢節不失)」のです。十年を超える抑留と、匈奴での家庭生活の中でも、自分が漢から託された使者としての使命と誇りを、片時も忘れなかった。やがて単于が死んで匈奴が内乱に陥ると、張騫はその隙に脱出し、ついに漢へ帰り着きました。しかし、旅立ったときには百人余りいた一行のうち、十三年の歳月を経て生きて帰れたのは、わずか二人だけだったのです。ここに、使命への忠実と忍耐についての教訓があります。第一に、どれほど長い歳月、困難な状況に囲まれても、託された使命と初心を手放さないこと(持漢節不失)。張騫は、十年以上の抑留という、諦めても誰も責めない状況の中で、なお使者の証を握りしめ続けた。逆境の長さに、志を風化させなかった、その一貫性。第二に、目先の安楽(匈奴での家庭)に流されず、本来の目的を見失わないこと。張騫は、居心地のよい環境に安住することもできたのに、脱出して使命を果たす道を選んだ。第三に、大きな志の達成には、想像を絶する犠牲と忍耐が伴うということ(百餘人、十三歳、唯二人得還)。組織や人生で、長い歳月や困難の中でも託された使命と初心を手放さないこと、目先の安楽に流されず本来の目的を見失わないこと、そして大志の達成に伴う犠牲と忍耐を覚悟すること——張騫の忍耐は、使命に忠実であり続けることの尊さを教えます。

解説

あなたは、長い歳月や困難な状況に囲まれても、自分に託された使命や当初の志を、風化させずに握りしめ続けられていますか?目先の安楽や居心地のよさに流されて、本来果たすべき目的を見失っていませんか?大きな志を成し遂げるには、想像を超える忍耐や犠牲が伴うことを、覚悟できていますか?

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