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史記 / 汲鄭列伝

河内失火し、延焼すること千餘家、上黯をして往きて之を視しむ。還り報じて曰、家人失火し、屋比りて延焼す、憂ふるに足らざるなり。臣河南を過ぐるに、河南の貧人水旱に傷るる者万餘家、或いは父子相食む、臣謹みて便宜を以て、節を持して河南の倉粟を発して以て貧民を振ふ。臣請ふ節を帰し、矯制の罪に伏せんと。上賢として之を釈す。

新字:河内失火し、延焼すること千余家、上黯をして往きて之を視しむ。還り報じて曰、家人失火し、屋比りて延焼す、憂ふるに足らざるなり。臣河南を過ぐるに、河南の貧人水旱に傷るる者万余家、或いは父子相食む、臣謹みて便宜を以て、節を持して河南の倉粟を発して以て貧民を振ふ。臣請ふ節を帰し、矯制の罪に伏せんと。上賢として之を釈す。

書き下し

河内失火し、延焼すること千餘家、上黯をして往きて之を視しむ。還り報じて曰く、「家人失火し、屋比りて延焼す、憂ふるに足らざるなり。臣河南を過ぐるに、河南の貧人水旱に傷るる者万餘家、或いは父子相食む、臣謹みて便宜を以て、節を持して河南の倉粟を発して以て貧民を振ふ。臣請ふ節を帰し、矯制の罪に伏せん」と。上賢として之を釈す。

現代語訳

「現場で本当に急を要する事態に直面したら、権限を超えてでも動き、その責任は自ら引き受ける」——汲黯の、決断と覚悟を描いた一段です。あるとき、河内で大火事が起き、千軒以上が焼けました。皇帝は汲黯を派遣して、視察させます。ところが帰った汲黯の報告は、意外なものでした。「河内の火事は、民家から出火して隣家に燃え広がったもので、(天下の一大事というほどではなく)ご心配には及びません。それより、私は途中で河南を通りましたが、そこでは水害と干ばつで一万軒以上もの貧民が苦しみ、中には親子が飢えて食い合うほどの惨状でした。そこで私は、独断で(便宜を以て)、皇帝の使者の証(節)を用いて、河南の倉の穀物を放出し、貧民を救済いたしました。つきましては、この証をお返しし、勝手に皇帝の命令を偽った罪(矯制の罪)を、謹んでお受けします」と。命じられた火事の視察より、道中で見た飢餓の惨状のほうが緊急だと判断し、与えられた権限を超えて、独断で人々を救ったのです。そして、その越権について、罰を自ら申し出た。皇帝は、この判断と覚悟を立派だとして、罪を赦しました。ここに、現場の決断と責任についての教訓があります。第一に、現場で、本当に急を要する重大な事態に直面したら、規則や与えられた権限の範囲にとらわれず、必要な行動を取る決断力。汲黯は、目の前の飢餓の惨状を前に、「これは自分の権限外だ」と手をこまねくのではなく、独断で人々を救った。真に緊急のとき、形式を守って機を逸するより、実質を取る勇気が要る。第二に、しかし、その越権を隠したり正当化したりするのではなく、自ら責任を引き受ける覚悟を持つこと(請伏矯制之罪)。汲黯は、独断の行動を隠さず、罰を自ら申し出た。権限を超えて動くなら、その責任もまた自ら負う——この覚悟があってこそ、独断は信頼される。第三に、上位者は、そうした正しい動機に基づく越権を、頭ごなしに罰するのではなく、その judgment と覚悟を評価すること(上賢而釋之)。組織で、真に緊急の事態には権限の枠を超えてでも動く決断力を持つこと、その越権の責任は隠さず自ら引き受けること、そして正しい動機の判断を評価する度量を持つこと——汲黯の河南の決断は、現場の判断力と責任の取り方を教えます。

解説

あなたは、現場で本当に急を要する重大な事態に直面したとき、規則や権限の枠にとらわれず、必要な行動を取る決断力を持てていますか?権限を超えて動いたとき、それを隠したり正当化したりせず、責任を自ら引き受ける覚悟がありますか?部下が正しい動機で権限を超えて動いたとき、頭ごなしに罰するのではなく、その判断と覚悟を評価する度量を持てていますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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