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史記 / 淮南衡山列伝

淮南王安為人好讀書鼓琴,不喜弋獵狗馬馳騁,亦欲以行陰德拊循百姓,流譽天下。時時怨望厲王死,時欲畔逆,未有因也。及,淮南王入朝。素善武安侯,武安侯時為太尉,乃逆王霸上,與王語曰:「方今上無太子,大王親高皇帝孫,行仁義,天下莫不聞。即宮車一日晏駕,非大王當誰立者!」淮南王大喜,厚遺武安侯金財物。陰結賓客,拊循百姓,為畔逆事。,彗星見,淮南王心怪之。或說王曰:「先吳軍起時,彗星出長數尺,然尚流血千里。今彗星長竟天,天下兵當大起。」王心以為上無太子,天下有變,諸侯并爭,愈益治器械攻戰具,積金錢賂遺郡國諸侯游士奇材。諸辨士為方略者,妄作妖言,諂諛王,王喜,多賜金錢,而謀反滋甚。

新字:淮南王安為人好読書鼓琴,不喜弋猟狗馬馳騁,亦欲以行陰徳拊循百姓,流誉天下。時時怨望厲王死,時欲畔逆,未有因也。及,淮南王入朝。素善武安侯,武安侯時為太尉,乃逆王覇上,与王語曰:「方今上無太子,大王親高皇帝孫,行仁義,天下莫不聞。即宮車一日晏駕,非大王当誰立者!」淮南王大喜,厚遺武安侯金財物。陰結賓客,拊循百姓,為畔逆事。,彗星見,淮南王心怪之。或説王曰:「先吳軍起時,彗星出長数尺,然尚流血千里。今彗星長竟天,天下兵当大起。」王心以為上無太子,天下有変,諸侯并争,愈益治器械攻戦具,積金銭賂遺郡国諸侯游士奇材。諸弁士為方略者,妄作妖言,諂諛王,王喜,多賜金銭,而謀反滋甚。

書き下し

淮南王安の為人、書を読み琴を鼓するを好み、亦た陰徳を行ひ百姓を拊循し、誉を天下に流さんと欲す。時時厲王の死を怨望し、時に畔逆せんと欲す。武安侯逆へて王に語りて曰く、「方今上に太子無し、大王は高皇帝の孫に親しく、仁義を行ひ、天下聞かざる莫し。即し宮車一日晏駕せば、大王に非ずして誰か立つべき者ぞ」と。淮南王大いに喜び、厚く武安侯に金財物を遺る。彗星見はれ、辨士の方略を為す者、妄りに妖言を作して王に諂諛す、王喜び、多く金銭を賜ひて、謀反滋ます甚だし。

現代語訳

淮南王・安の人柄は、読書と琴を好み、また陰徳を積んで人民をいたわり、その名声を天下に広めようとした。ときおり父・厲王の死を恨み、機会があれば謀反を起こそうとしていた。武安侯(田蚡)は彼を出迎えて言った。「今、主上には太子がおられません。大王は高皇帝の直系の孫で、仁義を行われ、天下に知らぬ者はない。もし主上が一朝にして崩御されたら、大王をおいて誰が立つべきでしょうか」。淮南王は大いに喜び、武安侯に金や財物を手厚く贈った。彗星が現れると、弁舌の徒で策謀を弄する者たちが、勝手に不吉な予言をこしらえて王におもねった。王は喜んで多くの金銭を与え、謀反の企てはますます深まった。

解説

「甘い言葉と、都合のよい思い込みが、危うい野心を煽り、判断を狂わせる」——淮南王安が、追従と妄言によって謀反へと傾いていく過程を描いた一段です。淮南王安は、読書と琴を好み、狩りや馬を好まず、ひそかに善行を積んで民をいたわり、天下に名声を広めようとする、教養ある人物でした。しかし内心では、父・厲王の死を恨み、折あらば謀反を起こそうという野心を、ひそかに抱いていたのです。この危うい野心を、周囲の甘い言葉が煽っていきます。まず、当時権勢を誇った武安侯(田蚡)が、王を出迎えてこう囁きました。「今、陛下には後継ぎの太子がおられません。大王は高祖の孫にあたる血筋で、仁義を行い、その名は天下に響いております。もし万一、陛下が崩御なさったら、大王をおいて誰が帝位に立てましょうか」と。この露骨なおだてに、淮南王は大喜びし、武安侯に多額の金品を贈りました。さらに、彗星が現れると、口達者な弁士たちが、「天下に大乱が起こる兆しだ」などと、でたらめな妖言をでっちあげて王にへつらいます。王はそれを喜んで、彼らに多くの金を与えた。こうして、甘い追従と、都合のよい思い込みに囲まれるうちに、王の謀反の心は、ますます膨れ上がっていったのです。ここに、判断を狂わせるものについての教訓があります。第一に、甘い言葉やおだて(諂諛)が、人の危うい野心や願望を煽り、冷静な判断を狂わせるということ。武安侯の「大王こそ次の帝に」という露骨なおだてに、淮南王は舞い上がった。自分にとって心地よい言葉ほど、その裏の意図や危うさを疑うべきである。第二に、都合のよい思い込み(願望的観測)が、事実を歪めて解釈させるということ。彗星という自然現象を、王は「自分に有利な天下の変事の兆し」と、願望に引きつけて解釈した。人は、見たいものを見てしまう。第三に、追従する者に報い、耳に痛いことを言う者を遠ざければ、周囲がイエスマンばかりになり、破滅へ突き進むということ。組織やリーダーの立場で、心地よいおだてほどその裏を疑うこと、都合のよい思い込みで事実を歪めないこと、そして追従者ばかりを重用して裸の王様にならないこと——淮南王安の暴走は、甘言と願望が判断を狂わせる危うさを教えます。

この章句が説くこと

淮南王安諂諛甘言が野心を煽る願望的観測彗星の妖言心地よい言葉の裏を疑う

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