史記 / 衛将軍驃騎列伝
大将軍既に還る、千金を賜ふ。是の時王夫人方に上に幸せらる、甯乘大将軍に説きて曰、将軍の功未だ甚だ多からずして、身萬戸を食み、三子皆侯為る所以の者は、徒だ皇后の故を以てなり。今王夫人幸せられて宗族未だ富貴ならず、願はくは将軍賜ふ所の千金を奉じて王夫人の親の為に寿せよ。大将軍乃ち五百金を以て寿と為す。天子之を聞き、大将軍に問ふ、大将軍実を以て言ふ、上乃ち甯乘を拝して東海都尉と為す。
新字:大将軍既に還る、千金を賜ふ。是の時王夫人方に上に幸せらる、甯乗大将軍に説きて曰、将軍の功未だ甚だ多からずして、身万戸を食み、三子皆侯為る所以の者は、徒だ皇后の故を以てなり。今王夫人幸せられて宗族未だ富貴ならず、願はくは将軍賜ふ所の千金を奉じて王夫人の親の為に寿せよ。大将軍乃ち五百金を以て寿と為す。天子之を聞き、大将軍に問ふ、大将軍実を以て言ふ、上乃ち甯乗を拝して東海都尉と為す。
書き下し
大将軍既に還るや、千金を賜ふ。是の時王夫人方に上に幸せらる、甯乘大将軍に説きて曰く、「将軍の功未だ甚だ多からずして、身萬戸を食み、三子皆侯為る所以の者は、徒だ皇后の故を以てなり。今王夫人幸せられて宗族未だ富貴ならず、願はくは将軍賜ふ所の千金を奉じて王夫人の親の為に寿せよ」と。大将軍乃ち五百金を以て寿と為す。天子之を聞き、大将軍に問ふ、大将軍実を以て言ふ、上乃ち甯乘を拝して東海都尉と為す。
現代語訳
「取り入るための工作を隠さず、問われれば正直にありのままを答える」——衛青が、裏の政治工作を隠さなかった誠実さを描いた一段です。大将軍・衛青が遠征から帰り、千金を賜ったときのことです。当時、王夫人という女性が皇帝の寵愛を受けていました。甯乘という者が衛青に、こう入れ知恵します。「将軍がさほど大きな功績もないのに、万戸の領地を食み、三人の子まで皆諸侯になれたのは、ひとえに(姉である)皇后のおかげです。今、王夫人が寵愛されているのに、その一族はまだ富貴ではありません。どうか賜った千金を、王夫人の親御さんへの祝いに贈られては(そうすれば新たな後ろ盾ができます)」と。衛青は、この助言に従い、五百金を王夫人の親への祝いとして贈りました。ところが、これを聞きつけた皇帝が衛青に問いただしたとき、衛青は隠し立てせず、ありのままの事実を正直に打ち明けたのです。皇帝はその正直さをよしとし、入れ知恵した甯乘のほうを、かえって東海の都尉に取り立てました。ここに、誠実さについての教訓があります。第一に、たとえ後ろ暗い政治工作に関わったとしても、問われたときに隠さず、ありのままを正直に答える誠実さ。衛青は、寵姫に取り入るための贈り物という、決して褒められた行いではないことを、皇帝に問われて隠さなかった。この正直さが、かえって皇帝の信頼を得た。第二に、隠し事や取り繕いは、露見したときにこそ信用を失うということ。もし衛青が事実を偽っていれば、皇帝の信頼を決定的に損なっていただろう。ごまかしよりも、正直な開示のほうが、長い目で見て信頼を守る。第三に、上位者は、部下の正直さを評価し、報いること。皇帝は、衛青の正直をよしとした。組織で、後ろ暗いことでも問われれば隠さず正直に答えること、ごまかしより正直な開示が信頼を守ると知ること、そして正直さが評価される関係を築くこと——衛青のこの逸話は、正直がもたらす信頼を教えます。