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史記 / 匈奴列伝

漢使或いは言ひて曰、匈奴の俗は老を賤しむと。中行說漢使を窮めて曰、而の漢の俗、屯戍従軍して発するに当たる者、其の老親豈に自ら温厚肥美を脱して以て齎送し飲食して戍に行かしむること有らざらんや。漢使曰、然り。中行說曰、匈奴は明らかに戦攻を以て事と為す、其の老弱は闘ふ能はず、故に其の肥美飲食を以て壮健者に与ふ、蓋し以て自ら守衛を為す、此くのごとくんば父子各おの久しく相保つを得、何を以て匈奴老を軽んずと言はんや。匈奴の俗、其の急なれば則ち人騎射を習ひ、寛なれば則ち人事無きを楽しむ、其の約束軽く、行ひ易きなり。君臣簡易にして、一国の政猶ほ一身のごときなり。

新字:漢使或いは言ひて曰、匈奴の俗は老を賤しむと。中行説漢使を窮めて曰、而の漢の俗、屯戍従軍して発するに当たる者、其の老親豈に自ら温厚肥美を脱して以て齎送し飲食して戍に行かしむること有らざらんや。漢使曰、然り。中行説曰、匈奴は明らかに戦攻を以て事と為す、其の老弱は闘ふ能はず、故に其の肥美飲食を以て壮健者に与ふ、蓋し以て自ら守衛を為す、此くのごとくんば父子各おの久しく相保つを得、何を以て匈奴老を軽んずと言はんや。匈奴の俗、其の急なれば則ち人騎射を習ひ、寛なれば則ち人事無きを楽しむ、其の約束軽く、行ひ易きなり。君臣簡易にして、一国の政猶ほ一身のごときなり。

書き下し

漢使或いは言ひて曰く、「匈奴の俗は老を賤しむ」と。中行說漢使を窮めて曰く、「而の漢の俗、屯戍従軍して発するに当たる者、其の老親豈に自ら温厚肥美を脱して以て齎送し飲食して戍に行かしむること有らざらんや」と。漢使曰く、「然り」と。中行說曰く、「匈奴は明らかに戦攻を以て事と為す、其の老弱は闘ふ能はず、故に其の肥美飲食を以て壮健者に与ふ、蓋し以て自ら守衛を為す、此くのごとくんば父子各おの久しく相保つを得、何を以て匈奴老を軽んずと言はんや」と。匈奴の俗、其の急なれば則ち人騎射を習ひ、寛なれば則ち人事無きを楽しむ、其の約束軽く、行ひ易きなり。君臣簡易にして、一国の政猶ほ一身のごときなり。

現代語訳

「自分の物差しで安易に他を裁かず、相手の習慣の背後にある理由と合理性を理解する」——漢の使者の批判に、中行説が反論した一段です。漢の使者が「匈奴の習俗は、老人を軽んじて粗末に扱う」と非難したとき、中行説はこう問い返しました。「あなた方漢でも、兵役に出る若者があれば、その老いた親は、自分の温かく上等な食べ物を割いて、出征する若者に持たせ、食べさせて送り出すではないか」。使者が「その通りだ」と認めると、中行説は説きます。「匈奴は、戦いを生業とする。老人や弱者は戦えない。だから、栄養のある良い食べ物を、戦える若者に回すのだ。そうすることで、結局は一族全体(親も子も)が長く守られる。どうしてこれを『老人を軽んじる』と言えようか」と。表面だけ見れば「老人を粗末にする」と映る習慣も、その背後には、集団全体を生き延びさせるという切実な合理性があったのです。中行説はさらに、匈奴の社会の特質を語ります。「匈奴は、危急のときには皆が騎射を習い、平時にはのびのびと過ごす。決まりごとは簡素で、守りやすい。君臣の関係も簡素で、国全体の統治が、まるで一つの身体のように(一國之政猶一身)動くのだ」と。ここに、異なるものへの理解についての教訓があります。第一に、自分の物差しや常識だけで、異なる相手のやり方を安易に裁かないこと。漢の使者は、自国の価値観で匈奴を「野蛮」と決めつけた。しかし、その習慣の背後には、それが生まれた環境に根ざした合理性があった。表面的な違いだけを見て優劣を断じるのは、浅慮である。第二に、相手のやり方の背後にある「理由」や「文脈」を理解しようとすること。遊牧という過酷な環境が、匈奴の習俗を形づくっていた。相手の置かれた状況を踏まえれば、一見奇異な慣習にも、それなりの必然が見えてくる。第三に、簡素で守りやすい仕組みが、かえって組織を一体的に、機敏に動かすという視点(約束輕、易行、一國之政猶一身)。複雑で重い制度より、実情に合った簡素な仕組みが機能する場合がある。組織や異文化・異業種との関わりで、自分の物差しで安易に他を裁かないこと、相手のやり方の背後にある理由と文脈を理解しようとすること、そして簡素で実情に合った仕組みの機能性に目を向けること——中行説の反論は、多様性を理解する視野を教えます。

解説

あなたは、自分の常識や物差しだけで、異なる相手のやり方や文化を、安易に「劣っている」と裁いていませんか?相手の習慣や判断の背後にある理由・文脈・置かれた状況を、理解しようと努めていますか?複雑で重い制度よりも、実情に合った簡素で守りやすい仕組みのほうが、かえって組織を機敏に動かす場合があると考えられていますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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