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史記 / 匈奴列伝

初め、匈奴漢の繒絮食物を好む、中行說曰、匈奴の人衆は漢の一郡に当たる能はず、然れども彊き所以の者は、衣食を異にし、漢に仰ぐ無きを以てなり。今単于俗を変じて漢物を好まば、漢物什二に過ぎざるも、則ち匈奴尽く漢に帰せん。其の漢繒絮を得れば、以て草棘の中に馳せ、衣袴皆裂敝し、以て旃裘の完善なるに如かざるを示せ。漢食物を得れば皆之を去り、以て湩酪の便美なるに如かざるを示せ。於是說単于の左右に教へて疏記し、以て其の人衆畜物を計課せしむ。

新字:初め、匈奴漢の繒絮食物を好む、中行説曰、匈奴の人衆は漢の一郡に当たる能はず、然れども彊き所以の者は、衣食を異にし、漢に仰ぐ無きを以てなり。今単于俗を変じて漢物を好まば、漢物什二に過ぎざるも、則ち匈奴尽く漢に帰せん。其の漢繒絮を得れば、以て草棘の中に馳せ、衣袴皆裂敝し、以て旃裘の完善なるに如かざるを示せ。漢食物を得れば皆之を去り、以て湩酪の便美なるに如かざるを示せ。於是説単于の左右に教へて疏記し、以て其の人衆畜物を計課せしむ。

書き下し

初め、匈奴漢の繒絮食物を好む。中行說曰く、「匈奴の人衆は漢の一郡に当たる能はず、然れども彊き所以の者は、衣食を異にし、漢に仰ぐ無きを以てなり。今単于俗を変じて漢物を好まば、漢物什二に過ぎざるも、則ち匈奴尽く漢に帰せん。其の漢繒絮を得れば、以て草棘の中に馳せ、衣袴皆裂敝し、以て旃裘の完善なるに如かざるを示せ。漢食物を得れば皆之を去り、以て湩酪の便美なるに如かざるを示せ」と。是に於て說単于の左右に教へて疏記し、以て其の人衆畜物を計課せしむ。

現代語訳

「相手に依存しきれば、自らの強みと独立を失う——安易な依存を戒め、自前の力を守る」——匈奴の参謀・中行説が説いた、自立の重要性を描いた一段です。もともと匈奴の人々は、漢の絹織物や食べ物を好んでいました。しかし、漢から匈奴に亡命した参謀・中行説は、これに強い警鐘を鳴らします。「匈奴の人口は、漢のたった一郡にも及ばない。それでも匈奴が強くいられるのは、衣食が漢とは異なり、漢に依存していないからだ(無仰於漢)。今、単于が習俗を変えて漢の物を好むようになれば、たとえ流入する漢の物が全体の一、二割にすぎなくても、やがて匈奴は、まるごと漢に依存してしまう(匈奴盡歸於漢矣)」と。彼はさらに具体的に説きます。「漢の絹の衣を手に入れたら、それを着て草やイバラの中を馬で駆けてみせよ。衣がすぐに破れ、匈奴の毛皮(旃裘)の丈夫さに及ばないと分からせるのだ。漢の食べ物を手に入れたら、みな捨てて、匈奴の乳製品(湩酪)のほうが便利で美味だと示せ」と。相手の華やかな物に安易に飛びつけば、いつしか自前の強みを捨て、相手に首根を押さえられてしまう——それを見抜いての戒めでした。ここに、自立と強みの維持についての教訓があります。第一に、相手(特に自分より強大な相手)の物やサービスに依存しきってしまえば、自らの独立と強みを失うということ。「無仰於漢」——匈奴の強さは、規模ではなく、漢に頼らない自立にあった。目先の魅力に引かれて依存を深めれば、やがて相手に主導権を握られる。第二に、依存は、たとえ一部(一、二割)から始まっても、じわじわと全体を侵食しうるということ。小さな依存を軽く見ず、自前でまかなう力を意識して守ることが要る。第三に、自社ならではの強み(毛皮・乳製品のような、その環境に根ざした独自の価値)を、安易に他者のものに置き換えないこと。組織や事業で、強大な相手への依存が自立と強みを失わせると知ること、小さな依存の積み重ねが主導権を奪うと警戒すること、そして自前の独自の強みを守り育てること——中行説の戒めは、依存に流されず自立を保つ大切さを教えます。

解説

あなたの組織や事業は、特定の強大な取引先やプラットフォームに依存しすぎて、自らの独立性や強みを失っていませんか?依存は、たとえ一部から始まっても、じわじわと全体を侵食し、やがて主導権を奪うと警戒できていますか?他者の魅力的なものに安易に置き換えず、自社ならではの独自の強みを、意識して守り育てられていますか?

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