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史記 / 張耳陳余列伝

章邯圍趙王歇於鉅鹿、陳餘北收常山兵、得數萬人、軍鉅鹿北。張耳在城中、數使人召前陳餘。陳餘自度兵少、不敵秦、不敢前。數月、張耳大怒、怨陳餘。及楚救至、遂出鉅鹿。張耳與陳餘相見、責讓陳餘以不肯救趙。陳餘怒曰、不意君之望臣深也、豈以臣為重去將哉。乃脫解印綬、推予張耳。張耳愕不受。陳餘起如廁。客說張耳曰、天與不取、反受其咎、急取之。張耳乃佩其印、收其麾下。陳餘還、望張耳不讓、遂趨出。由此陳餘張耳遂有卻。

新字:章邯囲趙王歇於鉅鹿、陳余北収常山兵、得数万人、軍鉅鹿北。張耳在城中、数使人召前陳余。陳余自度兵少、不敵秦、不敢前。数月、張耳大怒、怨陳余。及楚救至、遂出鉅鹿。張耳与陳余相見、責譲陳余以不肯救趙。陳余怒曰、不意君之望臣深也、豈以臣為重去将哉。乃脫解印綬、推予張耳。張耳愕不受。陳余起如廁。客説張耳曰、天与不取、反受其咎、急取之。張耳乃佩其印、収其麾下。陳余還、望張耳不譲、遂趨出。由此陳余張耳遂有卻。

書き下し

章邯趙王歇を鉅鹿に囲む。陳餘北のかた常山の兵を収め、数万人を得、鉅鹿の北に軍す。張耳城中に在り、数々人をして陳餘を召さしむ。陳餘自ら兵少なく、秦に敵せざるを度り、敢て前まず。数月、張耳大いに怒り、陳餘を怨む。楚の救至るに及び、遂に鉅鹿を出づ。張耳陳餘と相見え、陳餘を責讓するに趙を救ふを肯ぜざるを以てす。陳餘怒りて曰く、「意はざりき君の臣を望むこと深きを、豈に臣を以て将を去るを重しとせんや」と。乃ち印綬を脱解し、推して張耳に予ふ。張耳愕として受けず。陳餘起ちて厠に如く。客張耳に説きて曰く、「天の与ふるを取らざれば、反りて其の咎を受く、急ぎ之を取れ」と。張耳乃ち其の印を佩び、其の麾下を収む。陳餘還り、張耳の讓らざるを望み、遂に趨り出づ。此に由りて陳餘張耳遂に卻有り。

現代語訳

「危機と誤解が、固い友情に決定的な亀裂を入れる」——刎頸の交わりが崩れ始めた、痛ましい決裂の一段です。趙王が秦の章邯の大軍に鉅鹿で包囲されたとき、城内の張耳は、城外にいる親友・陳余に、何度も救援を求めました。しかし陳余は、自軍の兵が少なく、強大な秦軍にはとても敵わないと判断し、動きませんでした(無謀な突撃で全滅するのを避けたのです)。数ヶ月に及ぶ籠城の間、救われない張耳は、陳余を深く恨むようになります。やがて楚の援軍によって囲みが解けると、張耳は陳余と対面し、「なぜ救わなかったのか」と激しく責めました。陳余は「まさかあなたが、そこまで私を恨んでいるとは。私が将軍の地位を惜しんで(保身で)動かなかったとでも思うのか」と怒り、憤然として将軍の印綬を外し、張耳に押しつけます。「そんなに疑うなら、この地位も兵も返す」という抗議でした。張耳は驚いて受け取ろうとしませんでしたが、陳余が便所に立った隙に、側近が「天が与えるものを取らねば、かえって災いを招く。今すぐ取れ」とけしかけ、張耳はその印綬を身につけ、陳余の軍を接収してしまいます。戻ってきた陳余は、張耳が本当に自分の兵権を奪ったことに衝撃を受け、無言で立ち去りました。こうして、命を賭けた親友だった二人の間に、決定的な亀裂が入ったのです。ここに、人間関係の亀裂についての深い教訓があります。第一に、危機的状況が、それまでの信頼関係を試し、時に破壊するということ。陳余には陳余の合理的な判断(無謀な救援を避ける)があり、張耳には張耳の切実な思い(救われなかった恨み)があった。どちらにも言い分があるのに、危機の極限状況が、互いの立場の違いを、深い恨みと不信に変えてしまった。第二に、感情的な行き違いと、それを悪化させる周囲の存在。陳余が抗議で印綬を差し出したのは一時の感情でしたが、張耳がそれを(側近にけしかけられて)本当に奪ってしまったことで、修復可能だった行き違いが、決定的な決裂になった。周囲の人間が、対立を煽り、取り返しのつかない状況にすることがある。第三に、疑心暗鬼が信頼を蝕むこと。張耳は、陳余の判断を「保身」と疑い、陳余は張耳に「深く恨まれている」と感じた。互いへの疑いが、かつての固い友情を、修復不能なまでに壊した。組織や人間関係で、危機的状況が信頼関係を試すこと、感情的な行き違いを周囲が悪化させうること、そして疑心暗鬼が信頼を蝕むこと——張耳と陳余の決裂は、どんなに固い絆も、危機と誤解と猜疑によって崩れうる脆さを、痛切に教えています。

解説

あなたは、危機的な状況で、相手の判断や事情を「保身」「裏切り」と一方的に疑っていませんか?感情的な行き違いを、周囲の言葉に煽られて、取り返しのつかない決裂にしていませんか?疑心暗鬼が、かつての固い信頼関係を蝕むことを自覚できていますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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