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史記 / 魏公子列伝

公子留趙十年不歸。秦聞公子在趙、日夜出兵東伐魏。魏王患之、使使往請公子。公子恐其怒之、乃誡門下、有敢為魏王使通者死。賓客皆背魏之趙、莫敢勸公子歸。毛公薛公兩人往見公子曰、公子所以重於趙、名聞諸侯者、徒以有魏也。今秦攻魏、魏急而公子不恤、使秦破大梁而夷先王之宗廟、公子當何面目立天下乎。語未及卒、公子立變色、告車趣駕歸救魏。

新字:公子留趙十年不歸。秦聞公子在趙、日夜出兵東伐魏。魏王患之、使使往請公子。公子恐其怒之、乃誡門下、有敢為魏王使通者死。賓客皆背魏之趙、莫敢勧公子歸。毛公薛公両人往見公子曰、公子所以重於趙、名聞諸侯者、徒以有魏也。今秦攻魏、魏急而公子不恤、使秦破大梁而夷先王之宗廟、公子当何面目立天下乎。語未及卒、公子立変色、告車趣駕歸救魏。

書き下し

公子趙に留まること十年帰らず。秦公子の趙に在るを聞き、日夜兵を出だして東のかた魏を伐つ。魏王之を患ひ、使をして往きて公子を請はしむ。公子其の之を怒るを恐れ、乃ち門下を誡む、「敢て魏王の使の為に通ずる者有らば死せしむ」と。賓客皆魏に背きて趙に之き、敢て公子に帰るを勧むる莫し。毛公・薛公両人往きて公子に見えて曰く、「公子の趙に重んぜられ、名諸侯に聞こゆる所以は、徒だ魏有るを以てなり。今秦魏を攻め、魏急にして公子恤へずんば、秦をして大梁を破りて先王の宗廟を夷がしめば、公子当に何の面目ありて天下に立つべきか」と。語未だ卒ふるに及ばず、公子立ちどころに色を変じ、車を告げて駕を趣し帰りて魏を救ふ。

現代語訳

「身分や立場にとらわれず、本質を突く直言をする人材こそ貴い」——庶民の中の賢者を師とし、その率直な諫めで本分に立ち返る信陵君を描いた一段です。この前段で、信陵君は趙に滞在中、賭博場に隠れる毛公と、酒屋に身を潜める薛公という、身分は低いが優れた二人の隠者を、へりくだって師と仰いでいました(周囲は「賭博者や酒売りと交わるとは」と嘲笑しましたが、信陵君は意に介さなかった)。さて、兵符を盗んで趙を救った信陵君は、魏王の怒りを恐れて十年も趙に留まり、祖国・魏に帰りませんでした。その間、秦が魏を攻め、魏は危機に陥ります。魏王が救援を求めても、信陵君は帰ろうとせず、「魏王の使者を取り次ぐ者は死罪だ」とまで命じて、耳を塞ぐ。食客たちも誰も帰国を勧められませんでした。そのとき、毛公と薛公の二人が信陵君に会い、率直に諫めます。「あなたが趙で重んじられ、諸侯に名を知られるのは、ひとえに祖国・魏があるからです。今、秦が魏を攻め、魏が危急のときに、あなたが見捨てて、もし秦が都・大梁を破り、先祖の宗廟を踏みにじったら、あなたは何の面目があって天下に立てるのですか」。この言葉が終わらぬうちに、信陵君は顔色を変え、ただちに車を用意させて魏の救援に駆けつけました。ここに、二つの教訓があります。第一に、身分や立場ではなく、その人の見識で人材を評価する目の大切さ。信陵君が師と仰いだのは、賭博場や酒屋にいる、世間が軽んじる庶民でした。しかし彼らこそ、他の三千の食客が言えなかった痛烈な本質(祖国あってのあなただ)を突いた。優れた助言は、必ずしも高い地位の人からではなく、思わぬ立場の人からもたらされる。第二に、優れた直言は、迷える人を一瞬で本分に立ち返らせる。信陵君は、私情(魏王への恐れ・恨み)にとらわれて祖国を見捨てかけていましたが、毛公・薛公の一言で我に返り、大義(祖国防衛)に立ち返った。組織でも、リーダーが私情や保身で本分を見失いかけたとき、身分や忖度を超えて本質を突く直言をしてくれる人材が、どれほど貴いか。そして、そうした直言を受け入れて即座に行動を正せる素直さが、リーダーには求められるのです。

解説

あなたは、身分や立場にとらわれず、その人の見識で人材を評価できていますか?思わぬ立場の人からの率直な直言に、耳を傾けられていますか?自分が私情や保身で本分を見失いかけたとき、直言を受け入れて即座に行動を正せる素直さがありますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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