史記 / 孟嘗君列伝
孟嘗君在薛、招致諸侯賓客及亡人有罪者、皆歸孟嘗君。孟嘗君舍業厚遇之、以故傾天下之士。食客數千人、無貴賤一與文等。孟嘗君待客坐語、而屏風後常有侍史、主記君所與客語、問親戚居處。客去、孟嘗君已使使存問、獻遺其親戚。孟嘗君曾待客夜食、有一人蔽火光。客怒、以飯不等、輟食辭去。孟嘗君起、自持其飯比之。客慚、自剄。士以此多歸孟嘗君。孟嘗君客無所擇、皆善遇之。
新字:孟嘗君在薛、招致諸侯賓客及亡人有罪者、皆歸孟嘗君。孟嘗君舎業厚遇之、以故傾天下之士。食客数千人、無貴賤一与文等。孟嘗君待客坐語、而屏風後常有侍史、主記君所与客語、問親戚居処。客去、孟嘗君已使使存問、献遺其親戚。孟嘗君曽待客夜食、有一人蔽火光。客怒、以飯不等、輟食辞去。孟嘗君起、自持其飯比之。客慚、自剄。士以此多歸孟嘗君。孟嘗君客無所択、皆善遇之。
書き下し
孟嘗君薛に在り、諸侯の賓客及び亡人罪有る者を招致し、皆孟嘗君に帰す。孟嘗君業を舍てて之を厚遇す、故を以て天下の士を傾く。食客数千人、貴賤と無く一に文と等し。孟嘗君客を待して坐語するに、屏風の後ろに常に侍史有り、君の客と語る所を記し、親戚の居る処を問ふを主る。客去れば、孟嘗君已に使をして存問せしめ、其の親戚に献遺す。孟嘗君曾て客を待して夜食するに、一人火光を蔽ふ有り。客怒り、飯の等しからざるを以て、食を輟めて辞去せんとす。孟嘗君起ちて、自ら其の飯を持して之に比す。客慚ぢて自剄す。士此を以て多く孟嘗君に帰す。孟嘗君客に択ぶ所無く、皆善く之を遇す。
現代語訳
「相手が誰であれ分け隔てなく遇し、細やかに心を配る」——人が集まるリーダーの度量と気配りを描いた一段です。孟嘗君は、諸侯の賓客から、罪を犯して逃げてきた者まで、あらゆる人材を受け入れ、厚遇しました。そのため天下の士が彼のもとに集まったのです。彼のもてなしには、二つの特徴がありました。第一に、身分による差別が一切なかったこと。数千人の食客を、貴賤の別なく、すべて自分(孟嘗君)と同等に扱った。第二に、細やかな心配りです。客と談話するときは屏風の後ろに書記を置いて、客の家族の居所まで記録させ、客が帰ると使いを送って家族を見舞い、贈り物までした。さらに、ある夜の食事で、一人の客が「自分の食事は主人より劣るのでは」と疑って怒ったとき、孟嘗君は自ら立って自分の食膳を見せ、まったく同じだと証明した。客は恥じ入って自害したほど(=それほど孟嘗君の公平さは徹底していた)でした。ここに、人が集まり離れないリーダーの条件があります。第一に、相手の身分・立場・過去にかかわらず、一人ひとりを対等に、敬意をもって遇すること。人は「自分が軽んじられていない、大切にされている」と感じるとき、その相手に心を寄せます。第二に、口先だけでなく、具体的な行動で示す気配り。家族への配慮や、疑いを晴らすために自ら食膳を見せる誠実さが、深い信頼を生む。組織のリーダーにとって、人材を集める最大の力は、地位や報酬以上に、「一人ひとりを公平に、大切に扱う」という姿勢そのものです。ただし、孟嘗君が罪人まで無差別に受け入れた点は、後に薛が無法者の巣になる(太史公評)という影も生み、「誰でも受け入れる度量」が万能ではないことも示唆されます。