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史記 / 蘇秦列伝

乃西南說楚威王曰、楚、天下之彊國也。王、天下之賢王也。地方五千餘里、帶甲百萬、車千乘、騎萬匹、粟支十年、此霸王之資也。臣聞治之其未亂也、為之其未有也。患至而後憂之、則無及已。故願大王蚤孰計之。楚王曰、寡人自料以楚當秦、不見勝也。內與群臣謀、不足恃也。寡人臥不安席、食不甘味。今主君欲一天下、收諸侯、存危國、寡人謹奉社稷以從。於是六國從合而并力焉。蘇秦為從約長、并相六國。

新字:乃西南説楚威王曰、楚、天下之彊国也。王、天下之賢王也。地方五千余里、帯甲百万、車千乗、騎万匹、粟支十年、此覇王之資也。臣聞治之其未乱也、為之其未有也。患至而後憂之、則無及已。故願大王蚤孰計之。楚王曰、寡人自料以楚当秦、不見勝也。內与群臣謀、不足恃也。寡人臥不安席、食不甘味。今主君欲一天下、収諸侯、存危国、寡人謹奉社稷以従。於是六国従合而并力焉。蘇秦為従約長、并相六国。

書き下し

乃ち西南のかた楚の威王に説きて曰く、「楚は天下の彊国なり。王は天下の賢王なり。地方五千余里、帯甲百万、車千乗、騎万匹、粟十年を支ふ、此れ霸王の資なり。臣聞く、之を治むるは其の未だ乱れざるに、之を為すは其の未だ有らざるに、と。患ひ至りて後に之を憂ふれば、則ち及ぶ無し。故に願はくは大王蚤く孰々之を計れ」と。楚王曰く、「寡人自ら料るに楚を以て秦に当たるも、勝を見ざるなり。内に群臣と謀るも、恃むに足らず。寡人臥して席を安んぜず、食らひて味を甘しとせず。今主君天下を一にし、諸侯を収め、危国を存せんと欲す、寡人謹みて社稷を奉じて従はん」と。是に於いて六国従合して力を并す。蘇秦、従約長と為り、并せて六国に相たり。

現代語訳

「問題が起きてから対処するのでは遅い、まだ起きないうちに手を打て」という予防の思想と、一人の構想が六国を束ねた合従の完成を描く一段です。蘇秦は最後に、最大の国・楚の威王を説きます。核心は『治之其未亂也、為之其未有也(乱れないうちに治め、問題が起きないうちに手を打て)。患ひ至りて後に之を憂ふれば、則ち及ぶ無し(危機が来てから慌てても手遅れだ)』——後手に回る前に、先手で備えよという予防の思想です。楚王は、単独では秦に勝てず、臣下も頼りにならないと悩んでおり、この蘇秦の構想に乗ります。こうして燕・趙・韓・魏・斉・楚の六国が同盟(合従)を結び、蘇秦は六国すべての宰相を兼ねる「従約長」となりました。無名の一遊説家が、挫折から発憤し、各国の王を一人ずつ説き、ついに天下の勢力図を塗り替えたのです。ここには二つの教訓があります。第一に、危機管理の要諦は「事後対応」ではなく「事前予防」にある。問題が顕在化してからでは打てる手が限られる。まだ余裕のあるうちに構造的な備えをすることが、組織や事業の存続を左右します。第二に、大きなビジョン(六国連合)は、一気に実現するのではなく、関係者一人ひとりを、それぞれの利害と状況に合わせて個別に説得し、積み上げることで実現する。蘇秦は各国に、その国だけの論理(燕には趙の脅威、韓には誇り、斉には地理)を説いた。壮大な構想も、丁寧な個別対応の積み重ねの先に成る——構想力と、地道な実行力の両方が、大事を成す条件です。

解説

あなたは問題が起きてから慌てるのではなく、まだ余裕のあるうちに先手で備える予防の発想を持てていますか?大きな構想を、関係者一人ひとりの利害・状況に合わせて個別に説得し、積み上げて実現できていますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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