史記 / 老子韓非列伝
楚威王聞莊周賢、使使厚幣迎之、許以為相。莊周笑謂楚使者曰、千金、重利。卿相、尊位也。子獨不見郊祭之犧牛乎。養食之數歲、衣以文繡、以入大廟。當是之時、雖欲為孤豚、豈可得乎。子亟去、無污我。我寧游戲污瀆之中自快、無為有國者所羈、終身不仕、以快吾志焉。
新字:楚威王聞荘周賢、使使厚幣迎之、許以為相。荘周笑謂楚使者曰、千金、重利。卿相、尊位也。子独不見郊祭之犠牛乎。養食之数歲、衣以文繡、以入大廟。当是之時、雖欲為孤豚、豈可得乎。子亟去、無污我。我寧游戯污瀆之中自快、無為有国者所羈、終身不仕、以快吾志焉。
書き下し
楚の威王、荘周の賢なるを聞き、使ひをして幣を厚くして之を迎へ、許すに相と為るを以てせしむ。荘周、笑ひて楚の使者に謂ひて曰く、「千金は重利なり、卿相は尊位なり。子は独だ郊祭の犠牛を見ざるや。之を養食すること数歳、衣するに文繍を以てし、以て大廟に入る。是の時に当り、孤豚為らんと欲すと雖も、豈に得べけんや。子亟かに去り、我を汚す無かれ。我寧ろ汚瀆の中に游戯して自ら快とし、国を有つ者の羈ぐ所と為る無く、身を終ふるまで仕へず、以て吾が志を快くせん」と。
現代語訳
楚の威王は荘子が賢者だと聞き、使者に多額の礼物を持たせて迎え、宰相の地位を約束した。荘子は笑って楚の使者に言った。「千金は大きな利益、宰相は高い地位だ。だがあなたは、天地の祭りに捧げる生贄の牛を見たことがないのか。何年も大切に飼われ、美しい刺繍の布をかけられ、やがて廟に引き入れられて殺される。そのとき、ただの小豚になりたいと願っても、もう手遅れだ。さっさと帰ってくれ、私を汚さないでくれ。私はいっそ泥沼の中で気ままに遊んで楽しむ方がいい。国を治める者に縛られることなく、生涯仕えずに、自分の志のままに生きたいのだ」。
解説
高い地位と巨利の誘いを、あえて断る――「何を得るか」ではなく「何に縛られないか」を選ぶ価値観を鮮烈に示す逸話です。荘子は、宰相の座を「立派に飾られて祭壇に捧げられる生贄の牛」にたとえます。厚遇の裏には、自由の完全な喪失があると見抜いたのです。地位や報酬は魅力的ですが、それと引き換えに差し出すもの(自由・時間・自分らしさ)を、私たちは見落としがちです。キャリアや事業の選択でも、条件の良さだけで飛びつく前に、「それは自分を何に縛りつけるのか」を問う視点が要ります。もちろん全員が荘子の生き方を選ぶ必要はありません。しかし、地位や富が唯一の価値尺度ではないと知り、自分にとって手放せないものを自覚しておくことは、後悔しない選択の土台になります。
この章句が説くこと
自由地位の代償犠牛価値観縛られない生き方選択の軸
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