三略 / 下略
釋近謀近者,勞而無功。釋遠謀者,佚而有終。佚政多忠臣,勞政多怨民。故曰;務廣地者荒,務廣德者強。能有其有者安,貪人之有者殘。殘滅之政,累世受患。造作過制,雖成必敗。
新字:釈近謀近者,労而無功。釈遠謀者,佚而有終。佚政多忠臣,労政多怨民。故曰;務広地者荒,務広徳者強。能有其有者安,貪人之有者残。残滅之政,累世受患。造作過制,雖成必敗。
書き下し
近きを釈てて近きを謀る者は、労して功無し。遠きを釈てて謀る者は、佚にして終はり有り。佚政には忠臣多く、労政には怨民多し。故に曰く、地を広むるを務むる者は荒れ、徳を広むるを務むる者は強し。能く其の有を有つ者は安く、人の有を貪る者は残なり。残滅の政は、累世患を受く。造作制を過ぐれば、成ると雖も必ず敗る。
現代語訳
手近なものを捨てて手近な事ばかりを謀る者は、骨折るばかりで功がない。遠くのものにとらわれず謀る者は、ゆったりとして最後まで成し遂げる。ゆとりある政治には忠臣が多く、民を酷使する政治には怨む民が多い。だから言う。領土を広げようとする者は荒廃し、徳を広めようとする者は強くなる。自分の持ち分をしっかり保つ者は安泰であり、他人の持ち物を貪る者は損なわれる。人を損ない滅ぼす政治は、何代にもわたって災いを受ける。度を越えた造営や工事は、たとえ完成しても必ず失敗に終わる。
解説
何を広げようとするかで国の行く末が決まる、と説く段です。領土を広げようと駆け回れば国土は荒れ、徳を広めようと努めれば国は強くなる。自分の持ち分を守る者は安泰で、他人のものを貪る者は自らを損なう。人を苦しめる政治のツケは何代も続き、身の丈を超えた事業は完成しても結局は瓦解する。全体を貫くのは、拡大そのものが目的化した営みへの戒めです。ゆとりある政治には忠臣が集まり、民を酷使する政治には怨みが積もるという対比も、その根拠になっています。経営でも、規模の拡大を追って人を疲弊させれば、たとえ売上が伸びても人材は離れ、無理な投資は完成した瞬間から重荷になります。広げるべきは事業の版図ではなく、自社が世に届ける価値の厚みだ。そう読み替えれば、成長の質を問い直す言葉として今も生きています。