三略 / 下略
夫能扶天下之危者,則據天下之安。能除天下之憂者,則享天下之樂。能救天下之禍者,則獲天下之福。故澤及于民,則賢人歸之。澤及昆蟲,則聖人歸之。賢人所歸,則其國強。聖人所歸,則六合同。求賢以德、致聖以道。賢去則國微,聖去則國乖。微者危之階,乖者亡之徵。
新字:夫能扶天下之危者,則拠天下之安。能除天下之憂者,則享天下之楽。能救天下之禍者,則獲天下之福。故沢及于民,則賢人歸之。沢及昆虫,則聖人歸之。賢人所歸,則其国強。聖人所歸,則六合同。求賢以徳、致聖以道。賢去則国微,聖去則国乖。微者危之階,乖者亡之徴。
書き下し
夫れ能く天下の危を扶くる者は、則ち天下の安に拠る。能く天下の憂を除く者は、則ち天下の楽を享く。能く天下の禍を救ふ者は、則ち天下の福を獲。故に沢の民に及べば、則ち賢人之に帰す。沢の昆虫に及べば、則ち聖人之に帰す。賢人の帰する所は、則ち其の国強し。聖人の帰する所は、則ち六合同じ。賢を求むるに徳を以てし、聖を致すに道を以てす。賢去れば則ち国微に、聖去れば則ち国乖く。微は危の階なり、乖は亡の徴なり。
現代語訳
天下の危機を支えることのできる者は、天下の安泰を手にする。天下の憂いを取り除くことのできる者は、天下の楽しみを享受する。天下の災いを救うことのできる者は、天下の幸福を得る。だから、恵みが民にまで及べば賢人が集まってくる。恵みが小さな虫にまで及べば聖人が集まってくる。賢人が集まる国は強くなる。聖人が集まれば天下は一つになる。賢者を求めるには徳をもってし、聖者を招くには道をもってする。賢者が去れば国は衰え、聖者が去れば国は乱れる。衰えは危機への階段であり、乱れは滅亡の兆しである。
解説
下略の冒頭にふさわしく、人が集まる国が栄えるという原理を高らかに述べた段です。危機を支え、憂いを除き、災いを救う者が、結果として安泰と楽しみと福を得る。まず与える者が受け取るという順序が示されています。そして恵みがどこまで届くかによって、集まる人物の格が変わると説きます。民にまで及べば賢人が、小さな生き物にまで及べば聖人が来る。逆に賢者が去れば国は細り、聖者が去れば国は乱れ、それぞれ危機と滅亡の前触れになる。賢者を招くのは徳であり、聖者を招くのは道であって、待遇や地位ではありません。経営で言えば、優れた人材が集まるかどうかは、その会社が誰のために何を担っているかで決まります。人が辞め始めたときは、待遇の問題として処理する前に、自社の恵みが社会と社員にどこまで届いているかを問い直すべきです。