三略 / 上略
軍讖曰:姦雄相稱,障蔽主明。毀譽並興,壅塞主聰,各阿所私,令主失忠。故主察異言,乃觀其萌。主聘儒賢,姦雄乃遯。主任舊齒,萬事乃理。主聘巖穴,士乃得實。謀及負薪,功乃可述。不失人心,德乃洋益。
新字:軍讖曰:姦雄相称,障蔽主明。毀誉並興,壅塞主聰,各阿所私,令主失忠。故主察異言,乃観其萌。主聘儒賢,姦雄乃遯。主任旧歯,万事乃理。主聘巖穴,士乃得実。謀及負薪,功乃可述。不失人心,徳乃洋益。
書き下し
軍讖に曰く、姦雄相い称え、主の明を障蔽す。毀誉並び興り、主の聡を壅塞す。各おの私する所に阿り、主をして忠を失わしむ。故に主、異言を察すれば、乃ち其の萌を観る。主、儒賢を聘すれば、姦雄乃ち遯る。主、旧歯に任ずれば、万事乃ち理まる。主、巌穴を聘すれば、士乃ち実を得。謀は負薪に及べば、功は乃ち述ぶべし。人心を失わざれば、徳は乃ち洋益す、と。
現代語訳
軍讖にこうある。よこしまな英雄たちが互いにほめ合い、君主の明察を覆い隠す。悪口と称賛が入り乱れて起こり、君主の聡明な耳をふさぐ。それぞれが自分の身内におもねるので、君主は忠臣を失ってしまう。だから君主が異なる意見に耳を傾ければ、災いの芽を早くに見てとることができる。君主が学識ある賢者を招けば、よこしまな者は逃げ去る。君主が経験を積んだ古老に任せれば、万事は治まる。君主が山中に隠れた在野の人を招けば、真に実のある人材を得られる。謀を薪を背負う庶民にまで及ぼせば、功績は語るに足るものとなる。人心を失わなければ、徳はいよいよ広がり増していく、と。
解説
上略を締めくくる一段で、リーダーの目と耳をふさぐものと、それを開く方法が対にして語られます。よこしまな者たちは互いに称え合い、悪口と称賛を入り乱れさせて、上に立つ者の判断力を奪います。彼らはそれぞれ身内におもねるので、結果として君主は本当の忠臣を失うのです。ではどうするか。三略が示す処方は徹底して情報源の多様化です。異なる意見に耳を傾けよ、賢者を招け、経験ある古老に任せよ、在野の人材を求めよ、そして薪を背負う庶民にまで意見を聞け。ここで庶民の声が最後に置かれ、それによって功績は語るに足るものとなると結ばれるのが印象的です。現代の経営者にとっても、判断を誤らせる最大の要因は情報の偏りです。同質な取り巻きだけで固めれば、心地よい情報しか入ってきません。あえて異なる声を、そして現場の最前線の声を、自ら取りに行くこと。人心を失わない組織は、そこから始まります。
この章句が説くこと
情報の偏り異論の傾聴多様な人材登用人心を失わない
関連する章句
-
三略・上略軍讖に曰く、佞臣上に在れば、一軍皆な訟う。威を引きて自ら与し、動けば衆に違う。進むこと無く退くこと無く、苟くも然く容れらるるを取る。専ら己に任せ、挙措に功を伐る。盛徳を誹謗し、庸庸を誣述す。善無く悪無く、皆な己に同じからしむ。行事を稽留し、命令通ぜず。苛政を造作し、古を変じ常を易う。君、佞人を用うれば、必ず禍殃を受く、と。
-
三略・上略軍讖に曰く、群吏朋党して、各おの親しむ所を進め、姦枉を招き挙げ、仁賢を抑え挫き、公に背きて私を立て、位を同じくして相い訕る。是を乱源と謂う、と。
-
三略・上略軍讖に曰く、将は能く清く、能く静かに、能く平らかに、能く整い、能く諫を受け、能く訟を聴き、能く人を納れ、能く言を採り、能く国俗を知り、能く山川を図り、能く険難を表し、能く軍権を制す、と。故に曰く、仁賢の智、聖明の慮、負薪の言、廊廟の語、興衰の事は、将の宜しく聞くべき所なり、と。将たる者、能く士を思うこと渇するが如くなれば、則ち策は従わる。夫れ将、諫を拒めば、則ち英雄散ず。策従われざれば、則ち謀士叛く。善悪同じければ、則ち功臣倦む。己を専らにすれば、則ち下は咎を帰す。自ら伐れば、則ち下は功少なし。讒を信ずれば、則ち衆は心を離す。財を貪れば、則ち奸は禁ぜられず。内顧すれば、則ち士卒は淫る。将に一有れば、則ち衆服せず。二有れば、則ち軍に式無し。三有れば、則ち下は奔北す。四有れば、則ち禍は国に及ぶ。
-
三略・上略軍讖に曰く、賢者の適く所は、其の前に敵無し。故に士は下すべくして驕らすべからず、将は楽しましむべくして憂えしむべからず、謀は深くすべくして疑わしむべからず。士驕れば、則ち下順わず。将憂うれば、則ち内外相い信ぜず。謀疑わしければ、則ち敵国奮う。此を以て攻伐すれば、則ち乱を致す、と。夫れ将は国の命なり。将能く勝を制すれば、則ち国家安定す。
-
三略・上略軍国の要は、衆心を察して百務を施すにあり。危うき者は之を安んじ、懼るる者は之を歓ばしめ、叛く者は之を還し、冤なる者は之を原し、訴うる者は之を察し、卑しき者は之を貴くし、強き者は之を抑え、敵する者は之を残い、貪る者は之を豊かにし、欲する者は之を使い、畏るる者は之を隠し、謀ある者は之を近づけ、讒する者は之を覆し、毀る者は之を復し、反く者は之を廃し、横なる者は之を挫き、満つる者は之を損し、帰する者は之を招き、服する者は之を活かし、降る者は之を脱し、固きを獲れば之を守り、阨を獲れば之を塞ぎ、難を獲れば之に屯し、城を獲れば之を割き、地を獲れば之を裂き、財を獲れば之を散ず。敵動かば之を伺い、敵近づかば之に備え、敵強ければ之に下り、敵佚すれば之を去り、敵陵らば之を待ち、敵暴なれば之を緩め、敵悖れば之を義とし、敵睦めば之を携れしむ。順いて挙げて之を挫き、勢に因りて之を破り、言を放ちて之を過らせ、四もに網して之を羅う。得るも有つこと勿かれ、居るも守ること勿かれ、抜くも久しくすること勿かれ、立つるも取ること勿かれ。為す者は則ち己、有つ者は則ち士なれば、焉んぞ利の在る所を知らんや。彼を諸侯と為し、己を天子と為し、城をして自ら保たしめ、士をして自ら処らしむ。
-
三略・上略軍讖に曰く、将の謀は密ならんことを欲し、士衆は一ならんことを欲し、敵を攻むるは疾からんことを欲す。将の謀密なれば、則ち姦心閉づ。士衆一なれば、則ち軍心結ぶ。敵を攻むること疾ければ、則ち備え設くるに及ばず。軍に此の三者有れば、則ち計奪われず。将の謀泄るれば、則ち軍に勢無し。外より内を窺えば、則ち禍制せられず。財、営に入れば、則ち衆奸会す。将に此の三者有れば、軍は必ず敗る。将に慮無ければ、則ち謀士去る。将に勇無ければ、則ち士卒恐る。将妄りに動けば、則ち軍重からず。将怒りを遷せば、則ち一軍懼る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る