三略 / 上略
軍讖曰:賢者所適,其前無敵。故士可下而不可驕,將可樂而不可憂,謀可深而不可疑。士驕,則下不順。將憂,則內外不相信。謀疑,則敵國奮,以此攻伐,則致亂。夫將者,國之命也,將能制勝,則國家安定。
新字:軍讖曰:賢者所適,其前無敵。故士可下而不可驕,将可楽而不可憂,謀可深而不可疑。士驕,則下不順。将憂,則內外不相信。謀疑,則敵国奮,以此攻伐,則致乱。夫将者,国之命也,将能制勝,則国家安定。
書き下し
軍讖に曰く、賢者の適く所は、其の前に敵無し。故に士は下すべくして驕らすべからず、将は楽しましむべくして憂えしむべからず、謀は深くすべくして疑わしむべからず。士驕れば、則ち下順わず。将憂うれば、則ち内外相い信ぜず。謀疑わしければ、則ち敵国奮う。此を以て攻伐すれば、則ち乱を致す、と。夫れ将は国の命なり。将能く勝を制すれば、則ち国家安定す。
現代語訳
軍讖にこうある。賢者が向かうところ、その前に立ちはだかる敵はない。だから士はへりくだらせるべきで、驕らせてはならない。将は楽しませるべきで、憂えさせてはならない。謀は深く練るべきで、疑いを生じさせてはならない。士が驕れば下の者は従わない。将が憂えれば、内も外も互いに信じ合えなくなる。謀に疑いがあれば、敵国は勢いづく。この状態で攻め討てば、混乱を招くだけだ、と。将とは国の命運そのものである。将がよく勝利をつかめば、国家は安定するのである。
解説
組織を危うくする三つの状態を挙げた一段です。士が驕ること、将が憂いを抱えること、謀に疑いが残ること。この三つが揃うと、内部は信頼を失い、外部には隙を見せることになります。逆に言えば、現場が謙虚であり、リーダーが安んじて構え、方針に迷いがない組織は、行く先を阻むものがありません。そして最後に、将は国の命だと言い切ります。リーダー一人の状態が組織全体の運命を決めるのです。経営に置き換えれば、これは実務的な警告です。成功が続いて現場が驕り始めていないか。経営者自身が不安を抱え、その動揺が伝わっていないか。方針に迷いが残ったまま、走り出していないか。とくに三つ目は重要で、経営陣が腹落ちしていない戦略を現場に押しつければ、必ずどこかで綻びます。決断する前に迷い抜き、決めたあとは迷わない。この切り替えが、リーダーの最大の仕事です。