三略 / 上略
夫統軍持勢者,將也。制勝敗敵者,眾也。故亂將不可使保軍,乘眾不可使伐人。攻城不可拔,圍邑則不廢。二者無功,則士力疲憊,士力疲憊,則將孤眾悖,以守則不固,以戰則奔北,是謂老兵。兵老,則將威不行。將無威,則士卒輕刑。士卒輕刑,則軍失伍。軍失伍,則士卒逃亡。士卒逃亡,則敵乘利。敵乘利,則軍必喪。
新字:夫統軍持勢者,将也。制勝敗敵者,眾也。故乱将不可使保軍,乗眾不可使伐人。攻城不可抜,囲邑則不廃。二者無功,則士力疲憊,士力疲憊,則将孤眾悖,以守則不固,以戦則奔北,是謂老兵。兵老,則将威不行。将無威,則士卒輕刑。士卒輕刑,則軍失伍。軍失伍,則士卒逃亡。士卒逃亡,則敵乗利。敵乗利,則軍必喪。
書き下し
夫れ軍を統べ勢を持する者は将なり。勝を制し敵を敗る者は衆なり。故に乱将は軍を保たしむべからず、乖衆は人を伐たしむべからず。城を攻むるも抜くべからず、邑を囲むも則ち廃れず。二者功無ければ、則ち士力疲憊す。士力疲憊すれば、則ち将は孤にして衆は悖る。以て守れば則ち固からず、以て戦えば則ち奔北す。是を老兵と謂う。兵老ゆれば、則ち将の威行われず。将に威無ければ、則ち士卒は刑を軽んず。士卒刑を軽んずれば、則ち軍は伍を失う。軍伍を失えば、則ち士卒は逃亡す。士卒逃亡すれば、則ち敵は利に乗ず。敵利に乗ずれば、則ち軍は必ず喪ぶ。
現代語訳
軍を統率し勢いを保つのは将である。勝利をつかみ敵を破るのは兵士たちである。だから統率の乱れた将に軍を預けてはならず、心の離れた兵に人を討たせてはならない。そうなれば城を攻めても落とせず、町を囲んでも屈服させられない。この二つが実らなければ、兵の力は疲れ果てる。兵が疲れ果てれば、将は孤立し、兵は背く。守れば堅固でなく、戦えば敗走する。これを老兵という。軍が老いれば将の威令は行われない。将に威がなければ兵は刑罰を軽んじる。兵が刑罰を軽んじれば軍は隊列を失う。隊列を失えば兵は逃亡する。兵が逃亡すれば敵はその隙に乗じる。敵が乗じれば、軍は必ず滅びるのだ。
解説
組織が崩れていく過程を、連鎖として一気に描き切った一段です。将の統率が乱れ、兵の心が離れる。すると成果が出ず、疲弊が募る。疲弊が進めば将は孤立し、威令は届かなくなる。威令が届かないから規律が軽んじられ、隊列が乱れ、人が逃げ出し、ついには敵に付け込まれて全体が崩壊する。一つひとつは小さな綻びですが、放置すれば必ず次の綻びを呼ぶ、という警告です。企業でもこの連鎖は見覚えのあるものでしょう。無理な目標を掲げて成果が出ず、現場が疲れ、経営の言葉が響かなくなり、ルールが形骸化し、優秀な人から辞めていく。そして市場に足元を見られる。重要なのは、崩壊は最後の一撃ではなく、最初の連鎖の始まりで止められるということです。成果の出ない消耗戦を長引かせない。疲弊の兆しを見たら、まず立て直す。この段は、その決断の重さを教えています。