三略 / 上略
夫將帥者,必與士卒同滋味,而共安危,敵乃可加:故兵有全勝,敵有全因。昔者,良將之用,有饋簞醪者,使投諸河,與士卒同流而飲。夫一簞之醪,不能味一河之水,而三軍之士,思為致死者,以滋味之及己也。
新字:夫将帥者,必与士卒同滋味,而共安危,敵乃可加:故兵有全勝,敵有全因。昔者,良将之用,有饋簞醪者,使投諸河,与士卒同流而飲。夫一簞之醪,不能味一河之水,而三軍之士,思為致死者,以滋味之及己也。
書き下し
夫れ将帥たる者は、必ず士卒と滋味を同じくし、而して安危を共にす。敵は乃ち加うべし。故に兵に全勝有り、敵に全因有り。昔者、良将の用いるや、簞醪を饋る者有り、諸を河に投ぜしめ、士卒と流れを同じくして飲ましむ。夫れ一簞の醪、一河の水を味わうこと能わず。而れども三軍の士、為に死を致さんと思う者は、滋味の己に及ぶを以てなり。
現代語訳
およそ将帥たる者は、必ず兵士と同じ味のものを食べ、安危を共にする。そうして初めて敵に攻めかかることができる。だからこそ味方には完全な勝利があり、敵には完全な敗因が生まれる。むかし、すぐれた将のもとに一杯の美酒を贈った者があった。将はそれを川に投げ込ませ、兵士たちと同じ流れを飲んだ。一杯の酒が一つの川の水を味付けできるはずもない。それでも全軍の兵士が、この将のためなら死のうと思ったのは、その美味が自分にも及んだと感じたからである。
解説
将は兵と同じものを食べ、同じ危険を分かち合え、と説く一段です。象徴的なのが、贈られた酒を川に流して全軍と分かち合ったという逸話です。一杯の酒で川の水が旨くなるはずはありません。それでも兵士たちがこの将のために死ぬ気になったのは、その心づかいが自分にも届いたと感じたからでした。ここに人心掌握の本質があります。人が動くのは、実利の大きさよりも、大切にされていると感じられるかどうかなのです。現代の組織でも、経営者だけが特別扱いされる会社に一体感は生まれません。逆に、社長が現場と同じ場所で食事をし、同じ困難に身を置く姿を見せるだけで、空気は変わります。金額に換算すればわずかな行為が、計り知れない信頼を生む。象徴的な行動が持つ力を、この段は鮮やかに示しています。
この章句が説くこと
苦楽を共にする一体感象徴的行動信頼構築
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