三略 / 上略
故曰:莫不貪強,鮮能守微,若能守微,乃保其生。聖人存之,以應事機。舒之彌四海,卷之不盈杯,居之不以室宅,守之不以城郭,藏之胸臆,而敵國服。
新字:故曰:莫不貪強,鮮能守微,若能守微,乃保其生。聖人存之,以応事機。舒之弥四海,巻之不盈杯,居之不以室宅,守之不以城郭,蔵之胸臆,而敵国服。
書き下し
故に曰く、強を貪らざるは莫きも、能く微を守るは鮮し。若し能く微を守らば、乃ち其の生を保たん。聖人は之を存して、以て事機に応ず。之を舒ぶれば四海に弥り、之を巻けば杯に盈たず。之に居るに室宅を以てせず、之を守るに城郭を以てせず。之を胸臆に蔵して、敵国服す。
現代語訳
だからこう言うのだ。強さを求めない者はいないが、微妙なきざしを見守り続けられる者は少ない、と。もし微を守ることができるなら、その身を全うできる。聖人はこの微をわが内に保ち、それによって事の機微に応じる。これを広げれば天下の隅々にまで行きわたり、巻き収めれば杯一杯にも満たない。これを住まわせるのに家屋はいらず、これを守るのに城壁はいらない。ただ胸の内に納めておくだけで、敵国は自ら服従するのである。
解説
人は誰しも強さや勢いを求めますが、目に見えないほど小さなきざしを見守り続けられる人は少ない、と三略は言います。ここでいう微とは、事態が大きくなる前のわずかな兆候であり、また自分の内に秘めた見えざる知恵でもあります。それは広げれば天下を覆い、畳めば杯にも満たないほど小さい。家も城も要らず、ただ胸の内に蔵しておくだけで相手は自ずと従う、というのです。経営の現場に置き換えれば、これは兆候察知力と、それを騒ぎ立てずに手を打つ静かな胆力のことでしょう。顧客の小さな不満、現場のわずかな綻び、数字のかすかな変調。それらは大きくなってからでは手遅れですが、微のうちに気づけば静かに直せます。力を誇示することより、見えないうちに整えておくこと。派手さのないこの習慣が、結局は組織を長く保つのです。
この章句が説くこと
微を守る兆候察知先手の予防内に秘めた知恵
関連する章句
-
三略・下略近きを釈てて近きを謀る者は、労して功無し。遠きを釈てて謀る者は、佚にして終はり有り。佚政には忠臣多く、労政には怨民多し。故に曰く、地を広むるを務むる者は荒れ、徳を広むるを務むる者は強し。能く其の有を有つ者は安く、人の有を貪る者は残なり。残滅の政は、累世患を受く。造作制を過ぐれば、成ると雖も必ず敗る。
-
三略・中略聖人は天に体し、賢人は地に法り、智者は古を師とす。是の故に三略は衰世の為に作る。上略は礼賞を設け、姦雄を別ち、成敗を著す。中略は徳行を差べ、権変を審らかにす。下略は道徳を陳べ、安危を察し、賢を賊ふの咎を明らかにす。故に人主深く上略に暁かなれば、則ち能く賢に任じて敵を擒にす。深く中略に暁かなれば、則ち能く将を御し衆を統ぶ。深く下略に暁かなれば、則ち能く盛衰の源を明らかにし、治国の紀を審らかにす。
-
三略・下略夫れ能く天下の危を扶くる者は、則ち天下の安に拠る。能く天下の憂を除く者は、則ち天下の楽を享く。能く天下の禍を救ふ者は、則ち天下の福を獲。故に沢の民に及べば、則ち賢人之に帰す。沢の昆虫に及べば、則ち聖人之に帰す。賢人の帰する所は、則ち其の国強し。聖人の帰する所は、則ち六合同じ。賢を求むるに徳を以てし、聖を致すに道を以てす。賢去れば則ち国微に、聖去れば則ち国乖く。微は危の階なり、乖は亡の徴なり。
-
三略・上略軍讖に曰く、賢者の適く所は、其の前に敵無し。故に士は下すべくして驕らすべからず、将は楽しましむべくして憂えしむべからず、謀は深くすべくして疑わしむべからず。士驕れば、則ち下順わず。将憂うれば、則ち内外相い信ぜず。謀疑わしければ、則ち敵国奮う。此を以て攻伐すれば、則ち乱を致す、と。夫れ将は国の命なり。将能く勝を制すれば、則ち国家安定す。
-
三略・上略軍讖に曰く、能く柔に能く剛なれば、其の国は弥いよ光り、能く弱に能く強なれば、其の国は弥いよ彰る。純柔純弱なれば、其の国は必ず削られ、純剛純強なれば、其の国は必ず亡ぶ、と。
-
三略・上略軍讖に曰く、姦雄相い称え、主の明を障蔽す。毀誉並び興り、主の聡を壅塞す。各おの私する所に阿り、主をして忠を失わしむ。故に主、異言を察すれば、乃ち其の萌を観る。主、儒賢を聘すれば、姦雄乃ち遯る。主、旧歯に任ずれば、万事乃ち理まる。主、巌穴を聘すれば、士乃ち実を得。謀は負薪に及べば、功は乃ち述ぶべし。人心を失わざれば、徳は乃ち洋益す、と。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る