呂氏春秋 / 順說①
善說者若巧士,因人之力以自為力;因其來而與來,因其往而與往;不設形象,與生與長;而言之與響;與盛與衰,以之所歸;力雖多,材雖勁,以制其命。順風而呼,聲不加疾也;際高而望,目不加明也;所因便也。
新字:善説者若巧士,因人之力以自為力;因其来而与来,因其往而与往;不設形象,与生与長;而言之与響;与盛与衰,以之所歸;力雖多,材雖勁,以制其命。順風而呼,声不加疾也;際高而望,目不加明也;所因便也。
書き下し
善く説く者は巧士の若く、人の力に因りて以て自ら力と為す。其の來たるに因りて與に來たり、其の往くに因りて與に往き、形象を設けず、與に生じ與に長じて、言と響きとの如く、與に盛んに與に衰えて、以て歸する所に之く。力多しと雖も、材勁しと雖も、以て其の命を制す。風に順いて呼ぶも、聲、疾きことを加えざるなり。高きに際して望むも、目、明を加えざるなり。因る所便なるなり。
現代語訳
巧みに説く者は腕のよい職人のようで、相手の力に乗じてそれを自分の力とする。相手が来ればともに来て、相手が去ればともに去り、あらかじめ決まった形を構えず、相手とともに生じともに育ち、声と反響のように寄り添い、相手とともに盛んになりともに衰えて、行き着くべきところへ導く。相手の力が大きく才が強くても、こうしてその運命を制する。風に順って呼べば声が特に大きくなるわけではなく、高い所に登って眺めれば目が特によく見えるようになるわけではない。よりどころとする条件が都合よいだけなのである。
解説
「順説(相手に順って説く)」篇の総論です。要点は、巧みな説得者は自分の主張を押し付けず、相手の勢いや欲求に乗じてその力を利用し、自然に望む方向へ導く、という点にあります。声と反響のように相手に寄り添い、風向きや高所を利用する者のように、有利な条件を借りて成果を上げます。力任せではなく相手を起点に働きかける発想です。相手の立場や動機を理解し、それに沿って合意へ導くという姿勢は、対立を避けつつ人を動かす現代の交渉術やコミュニケーション、リーダーシップにも通じる普遍的な知恵です。
この章句が説くこと
順説説得術因る相手に順う反響交渉