呂氏春秋 / 權勳②
昔荊龔王與晉厲公戰於鄢陵,荊師敗,龔王傷。臨戰,司馬子反渴而求飲,豎陽穀操黍酒而進之。子反叱曰:“訾!退!酒也。”豎陽穀對曰:“非酒也。”子反曰:“亟退,卻也。”豎陽穀又曰:“非酒也。”子反受而飲之。子反之為人也嗜酒,甘而不能絕於口,以醉。戰既罷,龔王欲復戰而謀,使召司馬子反。子反辭以心疾。龔王駕而往視之,入幄中,聞酒臭而還,曰:“今日之戰,不穀親傷,所恃者司馬也。而司馬又若此,是忘荊國之社稷、而不恤吾眾也。不穀無與復戰矣。”於是罷師去之,斬司馬子反以為戮。故豎陽穀之進酒也,非以醉子反也,其心以忠也,而適足以殺之,故曰小忠,大忠之賊也。
新字:昔荊龔王与晉厲公戦於鄢陵,荊師敗,龔王傷。臨戦,司馬子反渴而求飲,豎陽穀操黍酒而進之。子反叱曰:“訾!退!酒也。”豎陽穀対曰:“非酒也。”子反曰:“亟退,却也。”豎陽穀又曰:“非酒也。”子反受而飲之。子反之為人也嗜酒,甘而不能絶於口,以酔。戦既罷,龔王欲復戦而謀,使召司馬子反。子反辞以心疾。龔王駕而往視之,入幄中,聞酒臭而還,曰:“今日之戦,不穀親傷,所恃者司馬也。而司馬又若此,是忘荊国之社稷、而不恤吾眾也。不穀無与復戦矣。”於是罷師去之,斬司馬子反以為戮。故豎陽穀之進酒也,非以酔子反也,其心以忠也,而適足以殺之,故曰小忠,大忠之賊也。
書き下し
昔、荊の龔王、晉の厲公と鄢陵に戰い、荊の師敗れ、龔王傷つく。戰いに臨みて、司馬子反、渇して飲を求むるに、豎陽穀、黍酒を操りて之に進む。子反叱して曰く、「訾、退けよ。酒なり。」豎陽穀對えて曰く、「酒に非ざるなり。」子反曰く、「亟かに退けよ。酒なり。」豎陽穀又曰く、「酒に非ざるなり。」子反受けて之を飲む。子反の人と為なりや、酒を嗜み、甘しとして口に絶つこと能わず、以て醉う。戰い既に罷む、龔王復た戰わんと欲して謀り、司馬子反を召さしむ。子反辭するに心疾を以てす。龔王駕して往きて之を視、幄中に入り、酒臭を聞きて還りて曰く、「今日の戰い、不穀親ら傷つく。恃む所の者は司馬なり。而るに司馬又此くの若し。是れ荊國の社稷を忘れて、吾が衆を恤えざるなり。不穀與に復た戰う無し。」是に於て師を罷め之を去り、司馬子反を斬りて以て戮と為せり。故に豎陽穀の酒を進むるや、以て子反を酔わすに非ざるなり。其の心以て忠せんとせしなり。而るに適々以て之を殺すに足れり。故に小忠は大忠の賊なりと曰う。
現代語訳
昔、楚の共王が晋の厲公と鄢陵で戦い、楚軍は敗れ共王も傷ついた。戦いのさなか、司馬の子反が喉が渇いて飲み物を求めると、従者の豎陽穀が黍の酒を差し出した。子反は「引っ込めよ、酒ではないか」と叱ったが、豎陽穀は「酒ではありません」と答える。押し問答の末、子反は受け取って飲んだ。子反は酒好きで、うまさに口を離せず酔ってしまった。戦いがいったん止み、共王が再戦を謀って子反を召したが、子反は心臓の病だと断った。共王が自ら見舞いに来て陣屋に入ると、酒の匂いがしたので引き返し、「今日の戦いで自分も傷ついた。頼みは司馬なのに、その司馬がこのありさまだ。これは国家を忘れ兵を顧みぬことだ。もはや共に戦えぬ」と言った。こうして軍を引き揚げ、子反を斬って処刑した。豎陽穀が酒を勧めたのは子反を酔わせようとしたのではなく、真心から尽くしたつもりだった。それがかえって子反を殺す結果になった。だから小忠は大忠の賊だというのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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説苑・敬慎斉の桓公大臣の為に酒を具え、期するに日中を以てす。管仲後れて至る。桓公觴を挙げて以て之に飲ましむ。管仲半ば酒を棄つ。桓公曰わく、「期して後れて至り、飲みて酒を棄つ、礼に於て可ならんか」と。管仲対えて曰わく、「臣之を聞く、酒入りて舌出で、舌出づる者は言を失い、言を失う者は身棄てらると。臣身を棄つるを計るは酒を棄つるに如かず」と。桓公笑いて曰わく、「仲父起ちて坐に就け。楚の恭王晋の厲公と鄢陵に戦いし時、司馬子反渴して飲を求む。豎穀陽酒を持して之に進む。子反曰わく、『退けよ、酒なり』と。穀陽曰わく、『酒に非ず』と。子反又曰わく、『退けよ、酒なり』と。穀陽又曰わく、『酒に非ず』と。子反受けて之を飲み、酔いて寝ぬ。恭王復た戦わんと欲し、人をして子反を召さしむ。子反心疾を以て辞す。是に於て恭王駕して往きて幄に入り、酒臭を聞きて曰わく、『今日の戦い、恃む所の者は司馬なり。司馬酔うこと此くの如くに至る、是れ吾が国を亡ぼして吾が衆を恤れまざるなり。吾以て復た戢む無し』と。是に於て乃ち子反を誅して以て戮と為し、師を還す」と。夫れ穀陽の酒を進むるや、子反の忠を妒むを以てするに非ず、之を愛して適々以て之を殺すに足れり。故に曰わく、「小忠は、大忠の賊なり。小利は、大利の残なり。好戦の臣は、察せざるべからざるなり」と。
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『韓非子』飾邪第十九豎穀陽の酒を進むるや、實心以て之を忠愛し、而も適に以て之を殺すに足るのみ。此れ小忠を行いて大忠を賊える者なり。
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『韓非子』十過第十小忠を行うは、則ち大忠の賊なり。
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戦国策・中山君饗都士中山君都士を饗す、大夫司馬子期焉に在り。羊羹遍からず、司馬子期怒りて楚に走り、楚王に説きて中山を伐たしむ、中山君亡ぐ。二人有り、戈を挈げて其の後に随う者、中山君顧みて二人に謂いて曰く、「子奚を為す者ぞや」と。二人対えて曰く、「臣に父有り、嘗て餓えて且に死せんとするに、君壺飡を下して之に餌わしむ。臣が父且に死せんとするに、曰く、『中山事有らば、汝必ず之に死せよ』と。故に来たりて君に死するなり」と。中山君喟然として仰ぎ歎じて曰く、「与うるは衆少を期せず、其れ厄に当たるに於てす。怨むは深浅を期せず、其れ心を傷つくるに於てす。吾一杯の羊羹を以て国を亡ぼし、一壺の飡を以て士二人を得たり」と。
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説苑・權謀太子商臣令尹子上を怨む。楚陳を攻め、晉之を救ふ。泜水を夾みて軍す。陽處父商臣の子上を怨むを知り、因りて子上に謂ひて曰く、「少しく卻け、吾涉りて子に從はん」と。子上卻く。因りて晉軍に令して曰く、「楚遁げたり」と。人をして商臣に告げしめて曰く、「子上晉の賂を受けて之を去れり」と。商臣之を成王に訴ふ。成王遂に之を殺す。
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戦国策・司馬憙使趙司馬憙、趙に使いし、己が為に中山に相たらんことを求む。公孫弘陰かに之を知る。中山君出づるに、司馬憙御し、公孫弘参乗す。弘曰く、「人臣為りて、大国の威を招き、以て己が為に相を求む、君に於て何如」と。君曰く、「吾其の肉を食らい、以て人に分たず」と。司馬憙軾に頓首して曰く、「臣自ら死の至るを知れり」と。君曰く、「何ぞや」と。「臣罪に抵る」と。君曰く、「行け、吾之を知れり」と。之に居ること頃くにして、趙の使来たり、司馬憙の為に相を求む。中山君大いに公孫弘を疑い、公孫弘走り出づ。