呂氏春秋 / 盡數⑤
凡食無(疆)〔彊〕厚,味無以烈味重酒,是以謂之疾首。食能以時,身必無災。凡食之道,無飢無飽,是之謂五藏之葆。口必甘味,和精端容,將之以神氣。百節虞歡,咸進受氣。飲必小咽,端直無戾。
新字:凡食無(疆)〔彊〕厚,味無以烈味重酒,是以謂之疾首。食能以時,身必無災。凡食之道,無飢無飽,是之謂五蔵之葆。口必甘味,和精端容,将之以神気。百節虞歓,咸進受気。飲必小咽,端直無戻。
書き下し
凡そ食は彊厚の味無く、烈味重酒を以いること無かれ。是を以て之を疾の首と謂う。食能く時を以てすれば、身必ず災い無し。凡そ食の道は、飢うること無く飽くること無し。是を之れ五藏の葆と謂う。口必ず味を甘しとし、精を和らげ容を端し、之を將うに神氣を以てすれば、百節虞歡し、咸進みて氣を受く。飲は必ず小咽なれば、端直にして戻ること無し。
現代語訳
食事はおよそ濃厚すぎる味を避け、激烈な味付けや濃い酒を用いてはならない。これらは病気のもとと呼ばれる。食事をきちんと時を定めてとれば、体は必ず災いを免れる。食の道はおよそ、飢えすぎず満腹しすぎないこと、これを五臓を守ることという。口では必ず味をうまいと感じ、精気を和らげ姿勢を正し、心気をもって食を養えば、体の節々は喜び、みなが活力を受け取る。飲み物は必ず少しずつ飲み込めば、体はまっすぐに保たれ、乱れが生じない。
解説
具体的な食養生の心得を説いています。濃すぎる味や強い酒を避け、決まった時刻に食べ、飢えも満腹も避けて腹八分を保つことが五臓を守る道だとします。さらに、味わって食べ、姿勢を正し、心を落ち着けて食に向かえば全身が活力を得ると述べ、飲み物は少しずつ飲むことまで説きます。二千年以上前の食事作法が、規則正しい食事・腹八分・よく味わう・落ち着いて食べるという、現代の健康的な食習慣とほぼ一致している点が印象的です。日々の食べ方を整えることが健康の基盤だという普遍の教えです。
この章句が説くこと
食養生彊厚五蔵之葆無飢無飽小咽腹八分
関連する章句
-
呂氏春秋・盡數①天、陰陽を生じるや、寒暑燥溼、四時の化、萬物の變、利為らざるは莫く、害為らざるは莫し。聖人、陰陽の宜しきを察し、萬物の利を辧じて、以て生に便ず。故に精・神は形に安んじて、年壽長きを得。長しとは、短くして之を續ぐに非ざるなり。其の數を畢くすなり。數を畢くすの務めは、害を去るに在り。何をか害を去ると謂う。大甘・大酸・大苦・大辛・大鹹、五者、形に充つれば、則ち生害せらる。大喜・大怒・大憂・大恐・大哀、五者、神に接すれば、則ち生害せらる。大寒・大熱・大燥・大溼・大風・大霖・大霧、七者精を動かせば、則ち生害せらる。故に凡そ生を養うは、本を知るに若くは莫し。本を知れば則ち疾由りて至ること無し。
-
呂氏春秋・孝行⑦養うに五道有り。宮室を修め、牀笫を安らかにし、飲食を節にするは、體を養うの道なり。五色を樹て、五采を施し、文章を列ぬるは、目を養うの道なり。六律を正し、五聲を龢し、八音を雜うるは、耳を養うの道なり。五穀を熟し、六畜を烹、煎調を龢するは、口を養うの道なり。顔色を龢らげ、言語を説ばし、進退を敬しくするは、志を養うの道なり。此の五者は、代わるがわる進めて厚く之を用うる、善く養うと謂う可し。
-
呂氏春秋・重己③室大なれば則ち陰多く、臺高ければ則ち陽多し。陰多ければ則ち蹶し、陽多ければ則ち痿す。此れ陰陽の適ならざるの患いなり。是の故に先王は大室に處らず、高臺を為らず、味は衆珍せず、衣は燀熱せず。燀熱すれば則ち理塞がり、理塞がれば則ち気達せず。味衆珍すれば則ち胃充ち、胃充つれば則ち中大いにもだえ、中大いにもだうれば而ち気達せず。此を以て長生せんとするも得可けんや。昔、先聖王の苑囿園池を為るや、以て觀望して形を勞うに足るのみ。其の宮室臺榭を為るや、以て燥濕を辟くるに足るのみ。其の輿馬衣裘を為るや、以て身を逸んじて骸を煖むるに足るのみ。其の飲食酏醴を為るや、以て味に適し虚を充たすに足るのみ。其の聲色音樂を為るや、以て性を安んじ自ら娯しむに足るのみ。五者は聖王の性を養う所以なり。倹を好みて費を惡むに非ざるなり。性に節するなり。
-
呂氏春秋・貴生①聖人、深く天下を慮るに、生より貴きものは莫し、と。夫れ耳目鼻口は生の役なり。耳、聲を欲すと雖も、目、色を欲すと雖も、鼻、芬香を欲すと雖も、口、滋味を欲すと雖も、生に害あれば、則ち止む。四官に在る者欲せずとも、生に利ある者は、則ち為す。此に由りて之を觀れば、耳目鼻口は、擅に行うことを得ず、必ず制する所有り。之を譬うれば、官職の、擅に為すことを得ずして、必ず制する所有るが若し。此れ生を貴ぶの術なり。
-
呂氏春秋・審時⑧是の故に時を得るの稼は興り、時を失うの稼は約す。莖相若く之を稱るに、時を得る者は重く、之を粟するに量多し。粟相若けば、之を舂くに、時を得る者は米量多し。米相若けば、之を食らうに、時を得る者は饑に忍う。是の故に時を得るの稼は、其の臭香しく、其の味甘く、其の氣章に、百日之を食らえば、耳目聰明に、心意叡智に、四衛變じて彊く、病氣入らず、身に苛殃無し。黃帝曰く、「四時は之を正せず、五穀を正すのみ。」
-
呂氏春秋・情欲③古人の道を得る者、生は以て壽長く、聲色滋味、能く久しく之を樂しむは、奚の故ぞ。論早く定まればなり。論早く定まれば、則ち早く嗇しむことを知る。早く嗇しむことを知れば、則ち精竭きず。秋早く寒ければ、則ち冬必ず煖かく、春多く雨ふれば則ち夏必ず旱す。天地すら兩つながらする能わず。而るを況んや人類に於いてをや。人と天地とは同じなり。萬物の形異なると雖も、其の情は一體なり。故に古の身と天下とを治むる者は、必ず天地に法るなり。尊、酌む者衆ければ則ち速く盡く。萬物の、大貴の生を酌む者衆し。故に大貴の生は常に速やかに盡く。徒に萬物之を酌むのみに非ず。又其の生を損して以て天下の人に資え、而も終に自ら知らず。功、外に成ると雖も、生、内に虧き、耳は以て聽く可からず、目は以て視る可からず、口は以て食らう可からず、胸中大いに擾れ、妄言想見す。死に臨むの上、顛倒驚懼して、為す所を知らず。心を用うること此くの如し。豈に悲しからずや。