呂氏春秋 / 情欲③
古人得道者,生以壽長,聲色滋味,能久樂之,奚故?論早定也。論早定則知早嗇,知早嗇則精不竭。秋早寒則冬必煗矣,春多雨則夏必旱矣,天地不能兩,而況於人類乎?人之與天地也同,萬物之形雖異,其情一體也。故古之治身與天下者,必法天地也。尊酌者眾則速盡。萬物之酌大貴之生者眾矣,故大貴之生常速盡。非徒萬物酌之也,又損其生以資天下之人,而終不自知。功雖成乎外,而生虧乎內。耳不可以聽,目不可以視,口不可以食,胸中大擾,妄言想見,臨死之上,顛倒驚懼,不知所為,用心如此,豈不悲哉!
新字:古人得道者,生以寿長,声色滋味,能久楽之,奚故?論早定也。論早定則知早嗇,知早嗇則精不竭。秋早寒則冬必煗矣,春多雨則夏必旱矣,天地不能両,而況於人類乎?人之与天地也同,万物之形雖異,其情一体也。故古之治身与天下者,必法天地也。尊酌者眾則速尽。万物之酌大貴之生者眾矣,故大貴之生常速尽。非徒万物酌之也,又損其生以資天下之人,而終不自知。功雖成乎外,而生虧乎内。耳不可以聴,目不可以視,口不可以食,胸中大擾,妄言想見,臨死之上,顛倒驚懼,不知所為,用心如此,豈不悲哉!
書き下し
古人の道を得る者、生は以て壽長く、聲色滋味、能く久しく之を樂しむは、奚の故ぞ。論早く定まればなり。論早く定まれば、則ち早く嗇しむことを知る。早く嗇しむことを知れば、則ち精竭きず。秋早く寒ければ、則ち冬必ず煖かく、春多く雨ふれば則ち夏必ず旱す。天地すら兩つながらする能わず。而るを況んや人類に於いてをや。人と天地とは同じなり。萬物の形異なると雖も、其の情は一體なり。故に古の身と天下とを治むる者は、必ず天地に法るなり。尊、酌む者衆ければ則ち速く盡く。萬物の、大貴の生を酌む者衆し。故に大貴の生は常に速やかに盡く。徒に萬物之を酌むのみに非ず。又其の生を損して以て天下の人に資え、而も終に自ら知らず。功、外に成ると雖も、生、内に虧き、耳は以て聽く可からず、目は以て視る可からず、口は以て食らう可からず、胸中大いに擾れ、妄言想見す。死に臨むの上、顛倒驚懼して、為す所を知らず。心を用うること此くの如し。豈に悲しからずや。
現代語訳
昔の道を得た人が、長生きし、音・色・味を長く楽しめたのはなぜか。養生の理論を早くに定めていたからだ。理論が早く定まれば、早くから精力を惜しむことを知る。早く惜しむことを知れば、精は尽きない。秋が早く寒くなればその冬は必ず暖かく、春に雨が多ければその夏は必ず干ばつになる。天地でさえ両方を同時に使い尽くすことはできない。まして人間ならなおさらだ。人も天地も理は同じである。万物は形こそ異なっても、その本性(生を好む性)は一つである。だから昔の、身と天下をともに治めた者は、必ず天地に手本をとった。酒樽も、汲む者が多ければ早く尽きる。万民が、最も貴い者(君主)の生をそこから汲み取ろうとする者は多い。だから最も貴い者の生は、常に速く尽きてしまう。ただ万民がそれを汲むだけではない。君主自身も生命をすり減らして天下の人々に与え、しかも最後までそれに気づかない。功業は外に成っても、生命は内で欠け、耳は聞けず、目は見えず、口は食べられなくなり、胸中は大いに乱れ、うわ言を口走り幻を見る。死に臨んでは、取り乱し恐れおののいて、どうすべきか分からない。このような心の使い方は、なんと悲しいことではないか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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呂氏春秋・情欲①天、人を生じて、貪有り欲有らしむ。欲に情有り、情に節有り。聖人、節を修めて以て欲を止む。故に其の情を行うを過ごさざるなり。故に耳の五聲を欲し、目の五色を欲し、口の五味を欲するは、情なり。此の三者は、貴賤愚智賢不肖、之を欲すること一の若し。神農・黃帝と雖も、其れ桀・紂と同じ。聖人の異なる所以は、其の情を得ればなり。生を貴ぶに由りて動けば、則ち其の情を得、生を貴ぶに由らずして動けば、則ち其の情を失う。此の二者は、死生存亡の本なり。
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呂氏春秋・貴生①聖人、深く天下を慮るに、生より貴きものは莫し、と。夫れ耳目鼻口は生の役なり。耳、聲を欲すと雖も、目、色を欲すと雖も、鼻、芬香を欲すと雖も、口、滋味を欲すと雖も、生に害あれば、則ち止む。四官に在る者欲せずとも、生に利ある者は、則ち為す。此に由りて之を觀れば、耳目鼻口は、擅に行うことを得ず、必ず制する所有り。之を譬うれば、官職の、擅に為すことを得ずして、必ず制する所有るが若し。此れ生を貴ぶの術なり。
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呂氏春秋・盡數①天、陰陽を生じるや、寒暑燥溼、四時の化、萬物の變、利為らざるは莫く、害為らざるは莫し。聖人、陰陽の宜しきを察し、萬物の利を辧じて、以て生に便ず。故に精・神は形に安んじて、年壽長きを得。長しとは、短くして之を續ぐに非ざるなり。其の數を畢くすなり。數を畢くすの務めは、害を去るに在り。何をか害を去ると謂う。大甘・大酸・大苦・大辛・大鹹、五者、形に充つれば、則ち生害せらる。大喜・大怒・大憂・大恐・大哀、五者、神に接すれば、則ち生害せらる。大寒・大熱・大燥・大溼・大風・大霖・大霧、七者精を動かせば、則ち生害せらる。故に凡そ生を養うは、本を知るに若くは莫し。本を知れば則ち疾由りて至ること無し。
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呂氏春秋・重己③室大なれば則ち陰多く、臺高ければ則ち陽多し。陰多ければ則ち蹶し、陽多ければ則ち痿す。此れ陰陽の適ならざるの患いなり。是の故に先王は大室に處らず、高臺を為らず、味は衆珍せず、衣は燀熱せず。燀熱すれば則ち理塞がり、理塞がれば則ち気達せず。味衆珍すれば則ち胃充ち、胃充つれば則ち中大いにもだえ、中大いにもだうれば而ち気達せず。此を以て長生せんとするも得可けんや。昔、先聖王の苑囿園池を為るや、以て觀望して形を勞うに足るのみ。其の宮室臺榭を為るや、以て燥濕を辟くるに足るのみ。其の輿馬衣裘を為るや、以て身を逸んじて骸を煖むるに足るのみ。其の飲食酏醴を為るや、以て味に適し虚を充たすに足るのみ。其の聲色音樂を為るや、以て性を安んじ自ら娯しむに足るのみ。五者は聖王の性を養う所以なり。倹を好みて費を惡むに非ざるなり。性に節するなり。
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呂氏春秋・貴生⑤故に曰く、「道の真、以て身を持し、其の緒餘、以て國家を為め、其の土苴、以て天下を治む。」此に由りて之を觀れば、帝王の功は、聖人の餘事なり。身を完くし生を養う所以の道に非ざるなり。今、世俗の君子は、身を危うくし生を棄てて、以て物に徇う。彼且た奚にか此を以て之かんとするや、彼且た奚にか此を以て為さんとするや。
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呂氏春秋・本生③今、此に聲有り。耳に之を聽けば必ず慊し。已に之を聽けば、則ち人をして聾ならしめば、必ず聽かざらん。此に色有り。目に之を視れば必ず慊し。已に之を視れば、則ち人をして盲ならしめば、必ず視ざらん。此に味有り。口に之を食らえば必ず慊し。已に之を食らえば、則ち人をして瘖ならしめば、必ず食らわざらん。是の故に聖人の聲色滋味に於けるや、性に利あれば則ち之を取り、性に害あれば則ち之を舎つ。此れ性を全くするの道なり。世の貴富なる者は、其の聲色滋味に於けるや、惑える者多し。日夜に求め、幸にして之を得れば則ち遁す。遁すれば、性惡くんぞ傷なわざるを得ん。