呂氏春秋 / 情欲②
俗主虧情,故每動為亡敗。耳不可贍,目不可厭,口不可滿,身盡府種,筋骨沈滯,血脈壅塞,九竅寥寥,曲失其宜,雖有彭祖,猶不能為也。其於物也,不可得之為欲,不可足之為求,大失生本。民人怨謗,又樹大讎;意氣易動,蹻然不固;矜勢好智,胸中欺詐;德義之緩,邪利之急。身以困窮,雖後悔之,尚將奚及?巧佞之近,端直之遠,國家大危,悔前之過,猶不可反。聞言而驚,不得所由。百病怒起,亂難時至。以此君人,為身大憂。耳不樂聲,目不樂色,口不甘味,與死無擇。
新字:俗主虧情,故毎動為亡敗。耳不可贍,目不可厭,口不可満,身尽府種,筋骨沈滞,血脈壅塞,九竅寥寥,曲失其宜,雖有彭祖,猶不能為也。其於物也,不可得之為欲,不可足之為求,大失生本。民人怨謗,又樹大讎;意気易動,蹻然不固;矜勢好智,胸中欺詐;徳義之緩,邪利之急。身以困窮,雖後悔之,尚将奚及?巧佞之近,端直之遠,国家大危,悔前之過,猶不可反。聞言而驚,不得所由。百病怒起,乱難時至。以此君人,為身大憂。耳不楽声,目不楽色,口不甘味,与死無択。
書き下し
俗主は情を虧く。故に動く毎に亡敗を為す。耳は贍る可からず、目は厭く可からず、口は滿つ可からず。身盡く府種し、筋骨沈滯し、血脈壅塞し、九竅寥寥とし、曲に其の宜しきを失う。彭祖有りと雖も、猶ほ為すこと能わざるなり。其の物に於けるや、得可からざるもの、之を欲することと為し、足る可からざるもの、之を求むることと為し、大いに生の本を失う。民人怨謗し、又大讎を樹つ。意氣動き易く、蹻然として固からず。勢に矜り智を好み、胸中欺詐し、德義を之れ緩にし、邪利を之れ急にす。身以て困窮して、後に之を悔ゆと雖も、尚ほ將た奚くんぞ及ばん。巧佞を之れ近づけ、端直を之れ遠ざけ、國家大いに危うくして、前の過ちを悔ゆるとも、猶ほ反す可からず。言を聞きて驚くも、由うる所を得ず。百病怒起し、亂難時に至る。此を以て人に君たれば、身の大憂と為る。耳は聲を樂しまず、目は色を樂しまず、口は味を甘しとせざれば、死と擇ぶこと無し。
現代語訳
俗な君主は情の節度を損なう。だから何かをするたびに滅びと失敗を招く。耳はいくら聞いても満ち足りず、目は飽きることなく、口も満たされない。その結果、体じゅうが腫れ、筋骨は滞り、血脈はふさがり、九つの穴(感覚器官)はうつろになり、ことごとくその適切さを失う。たとえ長寿で名高い彭祖であっても、こんな体ではどうにもできない。彼らは物事について、手に入るはずのないものを欲しがり、満たせるはずのないものを求め、大いに生命の根本を損なう。民は怨んで悪口を言い、大きな敵意を積み重ねる。気持ちは動揺しやすく、おごり高ぶって落ち着かない。権勢を鼻にかけ、こざかしさを好み、心中は偽りに満ち、徳義はおろそかにし、よこしまな利益ばかりを急ぐ。こうして身を行き詰まらせ、後で悔いても、もう取り返しがつかない。口先の巧みな佞人を近づけ、まっすぐな正直者を遠ざけ、国家を大いに危うくし、以前の過ちを悔いても、もう元には戻せない。危うい忠告を聞いて驚いても、なぜそうなったのか分からない。さまざまな病がいっせいに起こり、乱や災難が次々に訪れる。こんな有様で人の君主となれば、わが身の大きな憂いとなる。耳は音を楽しめず、目は色を楽しめず、口は味を甘く感じないのなら、それは死んでいるのと選ぶところがない。
解説
この章句が説くこと
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呂氏春秋・情欲①天、人を生じて、貪有り欲有らしむ。欲に情有り、情に節有り。聖人、節を修めて以て欲を止む。故に其の情を行うを過ごさざるなり。故に耳の五聲を欲し、目の五色を欲し、口の五味を欲するは、情なり。此の三者は、貴賤愚智賢不肖、之を欲すること一の若し。神農・黃帝と雖も、其れ桀・紂と同じ。聖人の異なる所以は、其の情を得ればなり。生を貴ぶに由りて動けば、則ち其の情を得、生を貴ぶに由らずして動けば、則ち其の情を失う。此の二者は、死生存亡の本なり。
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呂氏春秋・爲欲①民をして欲無からしめば、上賢なりと雖も猶ほ用うること能わず。夫れ欲無き者は、其の天子為るを視るや、輿隸為ると同じ、其の天下を有つを視るや、立錐の地無きと同じ、其の彭祖為るを視るや、殤子為ると同じ。天子は至貴なり、天下は至富なり、彭祖は至壽なり。誠に欲無ければ、則ち是の三者は以て勸むるに足らず。輿隸は至賤なり、立錐の地無きは至貧なり、殤子は至夭なり。誠に欲無ければ、則ち是の三者は以て禁ずるに足らず。會々一欲あれば、則ち北は大夏に至り、南は北戶に至り、西は三危に至り、東は扶木に至るまで、敢て亂とせず。白刃を犯し、流矢を冒し、水火に趣き、敢て卻かざるなり。晨に寤めて興き、耕を務め庸𣚣を疾め、煩辱を為し、敢て休まず。故に人の欲多き者は、其の用うるを得可きも亦た多し。人の欲少き者は、其の用うるを得可きも亦た少し。欲無き者は、用うるを得可からざるなり。人の欲多しと雖も、上以て之に令せしむること無ければ、人其の欲を得と雖も、人猶ほ用う可からざるなり。人をして欲を得しむるの道、審らかにせざる可からず。
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