論語と算盤 / 実業と士道・此にも能率増進法あり
其の切盛に一も無駄がない、話も亦適切である、私は実に敬服した、時間を無駄に使はぬこと斯の如くなれば、例の能率が如何にも増進するであらう、別に物を拵へる訳ではないが、詰り我々が時間を空費してるのは、丁度物を製作する場合に手を空くしてると同じことであるから、是はお互に注意して人間を無駄に使はぬは勿論のこと、我れ自身をどうぞ無駄に使はぬやうに心懸けたいと思ふ。
書き下し
その切り盛りに一つも無駄がない。話もまた適切である。私は実に敬服した。時間を無駄に使わぬことかくのごとくなれば、例の能率がいかにも増進するであろう。別に物をこしらえる訳ではないが、つまり我々が時間を空費しているのは、ちょうど物を製作する場合に手を空くしているのと同じことであるから、これはお互いに注意して人間を無駄に使わぬはもちろんのこと、我れ自身をどうぞ無駄に使わぬように心懸けたいと思う。
現代語訳
その段取りに一つも無駄がない。話もまた的確である。私は実に敬服した。これほど時間を無駄にしないなら、例の能率もいかにも上がるだろう。何かを製造しているわけではないが、つまり我々が時間を空費しているのは、物を作る現場で手を遊ばせているのと同じことなのだ。だから互いに気をつけて、人を無駄に使わないのはもちろん、自分自身をどうか無駄に使わないよう心がけたいと思う。
解説
能率増進——テイラーの科学的管理法は工場の話だと渋沢は思っていた。それが違うと気づいたのが、フィラデルフィアで百貨店王ジョン・ワナメーカーに接待されたときだった。列車の到着に自動車を合わせ、ホテルに寄らせず店へ直行させる。翌朝は八時四十五分きっかりに訪ねてくる。二時に来ると言えば二時に来る。店内、料理場、会議室、教育の場を一時間で見せ、日曜学校へ連れて行き、別れ際には次の再会の時刻まで決める。渋沢が敬服したのは分刻みの窮屈さではなく、無駄が一つもないのに話が的確だったことだ。事務の時間の空費は、工場で手を遊ばせるのと同じ——現場の言葉を、机の仕事に持ち込んだ章である。
この章句が説くこと
能率増進ワナメーカー時間の空費人を無駄に使わない