論語と算盤 / 人格と修養・商業に国境なし
また一方には日本から米国に移住してる人々に就ては、欧米の習慣に慣れぬ為に公徳が修まらぬとか、或は風采が鄙劣だとか、或は同化しないとか云ふやうな欠点があれば、其の欠点は相共に矯正して、勉めて直させるやうにして、米国人に嫌はれぬ所の人間たらしむることを心掛けるのが肝要である、今日の場合、人種とか宗教とかの相違から、日本人を嫌ふといふやうなことは、文明なる亜米利加人としてよもあるまいと思ふ、若し之れありとすれば、それは亜米利加人の誤謬である
書き下し
また一方には日本から米国に移住している人々については、欧米の習慣に慣れぬために公徳が修まらぬとか、あるいは風采が鄙劣だとか、あるいは同化しないとかいうような欠点があれば、その欠点は相ともに矯正して、努めて直させるようにして、米国人に嫌われぬ所の人間たらしむることを心掛けるのが肝要である。今日の場合、人種とか宗教とかの相違から、日本人を嫌うというようなことは、文明なる米国人としてよもあるまいと思う。もしこれありとすれば、それは米国人の誤謬である。
現代語訳
また一方で、日本から米国へ移り住んだ人々については、欧米の習慣に慣れないために公徳が身についていないとか、身なりが見苦しいとか、同化しないといった欠点があるなら、その欠点は互いに正し合い、努めて直させて、米国人に嫌われない人間になるよう心がけることが肝要である。今日において、人種や宗教の違いから日本人を嫌うというようなことは、文明国である米国人としてまさかあるまいと思う。もしそれがあるとすれば、それは米国人の誤りである。
解説
排日感情が高まっていく時期、渋沢は太平洋沿岸の商業会議所の代表を日本へ招き、直接に説いた。この一段はその演説の骨格である。順序に注目したい。まず自分たちの側の欠点を挙げ、互いに正そうと言う。そのうえで、人種や宗教で嫌うなら、それはあなた方の誤りだと言い切る。相手の非を鳴らす前に自分の直すところを言う——だから後半の指摘が説教にならない。彼は続けて、日本を世界に紹介したのは米国であり、その米国が差別的待遇をするなら「初めは正義にして後には暴戻」だと述べた。来訪者はこれを道理だと喜んだという。国境を越えた交渉で信を作る手順が、そのまま残っている章である。
この章句が説くこと
商業に国境なし日米関係公徳嫌われぬ人間となる