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論語と算盤 / 人格と修養・二宮尊徳と西郷隆盛

西郷参議に於かせられては、相馬一藩の興国安民法は大事であるによつて是非廃絶させぬやうにしたいが、国家の興国安民法は之を講ぜずに其儘に致し置いても差支無いとの御所存であるか、承りたい、苟も一国を双肩に荷はれて国政料理の大任に当らる〻参議の御身を以て、国家の小局部なる相馬一藩の興国安民法の為には御奔走あらせらる〻が、一国の興国安民法を如何にすべきかに就ての御賢慮なきは、近頃以て其意を得ぬ次第、本末顚倒の甚しきものであると、切論いたすと、西郷公は之に対し、別に何とも言はれず、黙々として茅屋を辞し還られてしまつた、兎に角、維新の豪傑のうちで、知らざるを知らずとして、毫も虚飾の無かつた人物は西郷公で、実に敬仰に堪へぬ次第である。

新字:西郷参議に於かせられては、相馬一藩の興国安民法は大事であるによつて是非廃絶させぬやうにしたいが、国家の興国安民法は之を講ぜずに其儘に致し置いても差支無いとの御所存であるか、承りたい、苟も一国を双肩に荷はれて国政料理の大任に当らる〻参議の御身を以て、国家の小局部なる相馬一藩の興国安民法の為には御奔走あらせらる〻が、一国の興国安民法を如何にすべきかに就ての御賢慮なきは、近頃以て其意を得ぬ次第、本末顛倒の甚しきものであると、切論いたすと、西郷公は之に対し、別に何とも言はれず、黙々として茅屋を辞し還られてしまつた、兎に角、維新の豪傑のうちで、知らざるを知らずとして、毫も虚飾の無かつた人物は西郷公で、実に敬仰に堪へぬ次第である。

書き下し

西郷参議におかせられては、相馬一藩の興国安民法は大事であるによって是非廃絶させぬようにしたいが、国家の興国安民法はこれを講ぜずにそのままに致し置いても差支え無いとの御所存であるか、承りたい。いやしくも一国を双肩に荷われて国政料理の大任に当たられる参議の御身をもって、国家の小局部なる相馬一藩の興国安民法のためには御奔走あらせられるが、一国の興国安民法をいかにすべきかについての御賢慮なきは、近頃もってその意を得ぬ次第、本末顛倒の甚だしきものであると切論いたすと、西郷公はこれに対し、別に何とも言われず、黙々として茅屋を辞し還られてしまった。とにかく、維新の豪傑のうちで、知らざるを知らずとして、少しも虚飾の無かった人物は西郷公で、実に敬仰に堪えぬ次第である。

現代語訳

西郷参議におかれては、相馬一藩の興国安民法は大事だからぜひ廃止させたくない、しかし国家の興国安民法のほうは、講じないまま放っておいて差し支えないというお考えなのか、うかがいたい。かりにも一国を双肩に担い、国政をさばく大任にあたる参議の身でありながら、国の小さな一部にすぎない相馬一藩のために奔走されるのに、一国の興国安民法をどうするかについてお考えがないのは、まったく合点がいかない、本末転倒も甚だしい——そう切論すると、西郷公はこれに対して何も言わず、黙って粗末な我が家を辞して帰られた。ともかく、維新の豪傑のうちで、知らないことを知らないとして、少しも虚飾のなかった人物は西郷公であり、実に敬い仰ぐほかない。

解説

明治四年、参議の西郷隆盛が大蔵大丞にすぎない渋沢の粗末な家を訪ねてきた。相馬藩が二宮尊徳の遺した興国安民法の存続を頼み込み、それを引き受けたからである。渋沢がまず尋ねたのは「その興国安民法とはどんなものか御承知か」——西郷は知らないと答えた。そこで渋沢が説明する。過去百八十年の歳入統計を作り、収入の少ない九十年の平均を基準に歳出を決め、剰余は開墾に回して新田は開墾者に与える。西郷は「量入以為出の道にも適う」と納得した。渋沢はそこから切り返す。一藩の法には奔走するのに、国家の興国安民法には考えがないのか、と。西郷は黙って帰った。二人の器がそれぞれの形で出ている一段である。

この章句が説くこと

興国安民法二宮尊徳西郷隆盛量入以為出

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