論語と算盤 / 理想と迷信・道理ある希望を持て
凡そ人の世に処するには、相当の趣味と理想とを以て道理から割出して進むのが必要であると思ふ、只その間に謂ゆる商業の徳義は如何しても立て通すやうにして、最も重要なるは信である、此の信の一字を守ることが出来なかつたならば、我々実業界の基礎は鞏固といふことは出来ないのである
書き下し
およそ人の世に処するには、相当の趣味と理想とをもって道理から割り出して進むのが必要であると思う。ただその間にいわゆる商業の徳義はどうしても立て通すようにして、最も重要なるは信である。この信の一字を守ることが出来なかったならば、我々実業界の基礎は鞏固ということは出来ないのである。
現代語訳
そもそも人が世を渡るには、それ相応の趣味と理想をもって、道理から割り出して進むことが必要だと思う。ただしその間、いわゆる商業の徳義だけはどうしても貫き通すようにしなければならない。そして最も重要なのは信である。この「信」の一字を守れなかったなら、我々実業界の基礎が堅固だとは言えないのである。
解説
第一次大戦のさなかに書かれた章である。平和が戻ったあとの実業界がどうなるかは臆断できない、悪いと思ったことが良くなり、良いと思ったことが悪くもなる——渋沢はそう前置きしたうえで、それでも理想は持つべきだと言う。予測は外れることがある。それでも一定の主義によって行うのでなければならない、と。そして先の読めない局面でこそ守るものとして「信」の一字を置く。事業の見通しは環境が決めるが、信を守るかどうかは自分が決められる。だから不確実なときほど、そこが基礎になる。章の題「道理ある希望を持て」の希望とは、楽観のことではなく、道理から割り出した見通しのことである。
この章句が説くこと
道理ある希望商業の徳義信の一字理想を持つ誠実さ信頼構築
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