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論語と算盤 / 処世と信条・大丈夫の試金石

若し何人でも自然的逆境に立つた場合には、第一に其の場合に自己の本分であると覚悟するのが唯一の策であらうと思ふ、足るを知りて分を守り、これは如何に焦慮すればとて、天命であるから仕方がないとあきらめるならば、如何に処し難き逆境に居ても、心は平かなるを得るに相違ない、然るに若し此の場合を総て人為的に解釈し、人間の力で如何にかなるものであると考へるならば、徒らに苦労の種を増すばかりか、労して功のない結果となり、遂には逆境に疲れさせられて、後日の策を講ずることも出来なくなつて仕舞ふであらう、故に自然的の逆境に処するに当つては、先づ天命に安んじ、徐ろに来るべき運命を待ちつ〻撓まず屈せず勉強するが可い。

書き下し

もし何人でも自然的逆境に立った場合には、第一にその場合に自己の本分であると覚悟するのが唯一の策であろうと思う。足るを知りて分を守り、これはいかに焦慮すればとて、天命であるから仕方がないとあきらめるならば、いかに処し難き逆境に居ても、心は平らかなるを得るに相違ない。しかるにもしこの場合をすべて人為的に解釈し、人間の力でどうにかなるものであると考えるならば、いたずらに苦労の種を増すばかりか、労して功のない結果となり、ついには逆境に疲れさせられて、後日の策を講ずることも出来なくなってしまうであろう。ゆえに自然的の逆境に処するに当たっては、まず天命に安んじ、おもむろに来るべき運命を待ちつつ、たわまず屈せず勉強するがよい。

現代語訳

もし誰であれ自然的な逆境に立たされたときは、まずこれが自分の本分なのだと覚悟する。それが唯一の策だと思う。足るを知って分を守り、いくら焦ったところでこれは天命なのだから仕方がない、とあきらめるなら、どれほど処しがたい逆境にいても心は平らかでいられる。ところが、この状況をすべて人のせい・人の力でどうにかなるものと解釈すれば、いたずらに苦労の種が増えるばかりで、骨折り損に終わり、しまいには逆境に疲れきって、次の手を考えることすらできなくなってしまう。だから自然的な逆境に処するときは、まず天命に安んじ、来るべき運命をゆっくり待ちながら、たわまず屈せず努め続けるのがよい。

解説

渋沢はまず逆境を二つに分ける。時代の変転が生んだ自然的逆境と、自分の招いた人為的逆境である。彼自身、尊王攘夷を唱えて奔走し、一橋家に仕え、幕臣となり、渡仏して帰れば幕府が消えていた。智も勤勉も足りていたのに逆境の人になった——それが自然的逆境だ、と自分を例に出す。処方はまったく違う。自然的逆境には天命に安んじて時を待ち、その間も勉強を続ける。人為的逆境には「自分に省みて悪い点を改めるより外はない」。順序を取り違えると、動かせないものに力を注いで疲れ切り、改められるものを運のせいにする。いまの苦境がどちらなのかを見分けることが先である。

この章句が説くこと

自然的逆境人為的逆境大丈夫の試金石天命に安んず

この一句を、あなたの毎日に。

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